時代劇の利点の一つは、日本でも大がかりなアクションシーンを描けることにある。
日本を舞台にした現代劇の場合、たとえば銃撃戦やカーチェイスなどはどうしても嘘臭いものに映ってしまう。だが、時代劇となれば刀がある。馬がいる。これらを駆使すれば、観客も違和感なく受け入れられるのだ。しかも「剣豪だから」「忍者だから」ということで、かなりの無茶も許される。
小池一夫原作の劇画を映像化した若山富三郎主演「子連れ狼」シリーズは、その最たるものといえる。刺客・拝一刀(若山)と裏柳生との死闘が毎回描かれていくのだが、「時代劇はここまでできるのか」と思い知ることのできる、イマジネーションあふれるアクションが満載されていた。
中でも、今回取り上げるシリーズ最終作『子連れ狼 地獄へ行くぞ!大五郎』は強烈だ。本作のクライマックスとなる決戦の地は、白銀の雪山。時代劇史上でも稀有の舞台を背景に、見たことのない物凄いアクションが繰り広げられる。
刺客として放った子どもたちを全て一刀に返り討ちにされた裏柳生の当主・烈堂(大木実)は、一度は追放した兵衛(木村功)に一刀打倒を託す。兵衛の率いる土蜘蛛党の忍者たち(石橋蓮司、草野大悟ら)は、四十二日ものあいだ土の中で暮らして特別の能力を身につけた「生者にして生者にあらず」という異形の集団。地中を虫のように自在に移動し、一刀に迫る。その術に対すべく一刀は雪山に土蜘蛛を誘い込む。雪の中にあっては凍えてしまい、力を発揮できず土蜘蛛党は自滅した。
なんと呆気ない幕切れ——と思うかもしれないが、ここからが本作の本番になる。
土蜘蛛を壊滅させた一刀の前に、今度は烈堂自らが率いる忍者軍団・黒鍬党が現れる。土蜘蛛とは異なり、彼らは完全防寒の上に足にはスキー板。自在に雪面を動き、一刀に襲いかかる。が、一刀も負けてはいない。我が子・大五郎を乗せる乳母車に仕込んでいたマシンガンや薙刀(なぎなた)で黒鍬を次々となぎ倒していく。
そして驚くことに、一刀は乳母車をソリ代わりに、雪面を滑るのだ。こうして双方共に斜面を滑降しながらの大チャンバラが展開、白銀の世界を鮮血で赤く染めるド迫力のチェイスが映し出される。
敵に両手を鎖で繋がれた状態で乳母車の上で仁王立ちになり、そのまま滑り落ちていく——など、若山の身体を張った壮絶なアクションを前に、こちらはただただ固唾を飲むしかなくなっていた。
スケール、超人技、アクション——時代劇だからこそ盛りこめた創造性豊かなアイデアの数々に震えることだろう。