「バス停まで追いかけたというのは本当です。そして、何かを感じたというのも間違いない。どこかに(才能がある子が)いねぇかって必死でした。どうしても素材が必要だったから、特待生にした」

スクールに毎日1時間半歩いて通った安室

 安室には天性の身のこなしに加えて、自分の決めたことをやり通す意志の強さがあった。

 彼女の家庭は経済的に困窮しており、アクターズスクールまでのバス代がなかった。そこで毎日1時間半歩いて通ってきたという。

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〈普段の奈美恵は、教室の隅っこにひとりで座って、じっとうつむいていることが多かった。人前ではあまり練習もしない。友達と一緒にはしゃいだりするようなタイプではなく、物静かで、話すことも苦手な、内向的なイメージが先行する少女だった。

 しかし、いざレッスンとなると、一気に輝きを増す。人がいないところでは、彼女は他の誰よりも努力を重ねた。

 それは時に声や身体を壊してしまいかねないような、激しい練習となった。

「喉が潰れるから止めろ」

 こちらがそういうまで、歌うことに没頭した。そうやって注意されても、ひとりで黙々と歌い続ける練習熱心な生徒だった〉(『沖縄と歌姫』)

 マキノは安室をすぐ、レコード会社や芸能プロダクションの人間に引き合わせている。しかし、彼らの反応は薄かった。

「プロデューサーには20人ぐらい会わせたんだけれど、誰も何も言わなかった。アリンコみたいだねって言った人もいた。そう言ってくれただけでもありがたい。なんか(感想を)言ってくれたということだから」

 マキノは皮肉っぽく笑った。

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