1995年9月25日――声優・富山敬の死去
――OVA第3期でヤンが亡くなる場面は、ユリアンを演じる佐々木さんにとっても大事な話数だったと思います。収録のときのことを覚えておられますか。
佐々木:その回の台本は前の週にいただいていたんですけど、台本を読んで、収録の日が来るのがすごく嫌だったんです。当日の朝も、このシーンを何時間かあとに見て、ここに書かれたセリフを言うことになるんだと思うと気が重くて、スタジオに行きたくないなと思っていました。ヤンが亡くなることを私個人が受け入れられないと感じたんです。だから、あの日はひたすら、収録を早く終わらせて帰りたいと思っていました。画面の絵もできるだけ見ないようにしてセリフを言いました。見るとつらいので。
明田川:僕はそこまで思いつめてはいなかったけれど、やはりヤンがこんなに早く亡くなるというのは意外で、あれっという感じはありました。なおかつ現実として富山さんが録り終わったあとに亡くなるというね。アニメの収録は、これからどうなるんだろうと思いました。
佐々木:富山さんが亡くなられたと知ったとき、ただ茫然としていました。悲しいとかショックだとかという感情以前に、魂がぬけるような思いがありました。「このあいだ、ヤンが亡くなるシーンを録ったばかりなのに……」と思い返しながら、ヤンと、ヤンをずっと演じきってこられた富山さんのことを同時に考えていました。
ユリアンと私自身が同時に存在している気がして、どんどん遠ざかっていかれる富山さんとヤンの後ろ姿を私たちで見送っているような、そんな不思議な感覚がありました。
【プロフィール】
明田川進(あけたがわ・すすむ)
音響監督。1941年東京生まれ。株式会社マジックカプセル会長、日本音声製作者連盟理事。専修大学経済学科在学中の63年に虫プロダクションに入社し、67年に『リボンの騎士』で音響監督デビュー。虫プロ退社後、グループ・タックの設立に参加し、サンリオ映画部などを経て、自身が設立したマジックカプセルでの業務を本格的にスタートさせる。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は『AKIRA』『銀河英雄伝説(OVA版)』『カスミン』『グイン・サーガ』など多数。
佐々木望(ささき・のぞむ)
声優。青二プロダクション所属。主な出演作に『幽☆遊☆白書』(浦飯幽助役)、『AKIRA』(鉄雄役)、OVA『銀河英雄伝説』(ユリアン・ミンツ役)、『MONSTER』(ヨハン・リーベルト役)、『テニスの王子様』 (亜久津仁役)、『DEATH NOTE』(メロ役)など。著書『声優、東大に行く 仕事をしながら独学で合格した2年間の勉強術』(KADOKAWA刊)。
