活動弁士は全国に20人程度、20代のプロ弁士も
――何だか、映画『国宝』の吉沢亮と横浜流星が演じる歌舞伎役者の関係を思い出しますね。ちなみにいま、活動弁士を職業にされている方って何人ぐらいいらっしゃるんですか?
坂本 20人ちょいです。この3月に亀戸で全国の弁士が集まる会がありまして、その時にまあだいたい20数人いるんだと。
――地方にもいらっしゃるんですか?
坂本 大阪に大森くみこさんという女性がいます。この人は、ラジオ番組の司会のアシスタントなんかを務めていたんですけど、活動弁士に興味を持って、もう10年以上やってますからね。この人も師匠というか、井上陽一先生って関西に素晴らしい弁士さんがいらっしゃったんだけど、亡くなっちゃって。いま、一人で奮闘されています。
それから澤登翠さんの弟子で、尾田直彪っていう25歳の子が入ってきて。20代でプロの弁士っていうのは、いま彼だけじゃないですか。3年前にね、まだ彼が22歳のときですよ。活弁やりたいという子がいて、澤登さんに弟子入りを志願してるんだって聞いて、みんなびっくりしちゃって。平均年齢が高くなってたところに急に20代の子が来たから、あたふたしちゃってね。面白い青年で、たまに私も仕事手伝ってもらってます。
――20代とは、将来が楽しみですね。
坂本 でも、彼には言ってるんです。尾田君はいま、最年少の活動弁士ということでときどきマスコミでも紹介されたりする。「でも、尾田君」と、「最年少活動弁士というのは君がたまたま一番若いからつく肩書であって、それは君の特殊能力とか実力では全然ない。だから君より若い、一日でも遅く生まれた子が弁士を始めたら、君のその看板は剥奪されるんですよ」と。「危機感を持って行くしかないよ」って。
弟子を取れないと思っていたけど…
――坂本さん自身は弟子を取るつもりはあるんですか?
坂本 以前は、私には活弁の師匠がいないから弟子は取れないと……取らないんじゃなくて取れないって思ってたんですが、それが寄席に出るようになったこともあり、もしそういう子が来たら、何とか教えられるような方向でいこうと思うようになりました。だって、たとえ直接の師匠がいなくても、先人たちに私は有形無形で教わってきたわけですから。だからこの業界には感謝してるし、恩返しもしなきゃいけない。
そのためには、もし、これから活動弁士をやりたいというような、まあ私みたいなおっちょこちょいが来たら、それはもうできるかぎり面倒を見なきゃならんのではないか。しかし、弟子入りというのは向こうが来るべきことですからね。私がどっかでスカウトするわけにはいかない。

