――もし、弟子になりたいという人が現れたら?

坂本 まず、寄席の楽屋に入ってくれって言います。楽屋に入って、落語家や浪曲師の若い子達と一緒に芸術協会の前座として働いてほしい。その前座期間が明けたら、活動弁士として本格的に勉強できるようにするから、と。

 だから、私の弟子になるとしたら、その子は最初は活弁とちょっと離れなきゃいけない。一見かわいそうだけど、得るものも多い。楽屋で着物を畳んだりとか、太鼓とか鳴り物やったりとか、掃除、お茶くみ、雑用一切、師匠方に揉まれることで、芸種は違えど同じ経験をした仲間ができる。何より仕事をしつつ、ソデで先輩方の様々な芸を勉強できる。人の芸を見聞きするのは本当に大切です。

©山元茂樹/文藝春秋

 活動弁士っていうのはだいたい仲間がいないんだから。私は運がよかったんですよ、始めた当時、たまたま一郎さんや、山崎バニラさんがいたから。あと、山田広野さん(活動弁士・映画監督。自作の映画に活弁を当てるスタイルで活躍)もいたり、そういう同世代の人が出てきたからまだ幸いだった。いま、尾田君には同世代で互いに意識するような仲間がいないんだから。一人はよろしくないですよ。やっぱり天地真理の歌なんです。「一人じゃないって素敵なことね」なんですよ。

ADVERTISEMENT

 だから、これからの活動弁士は絶対に演芸の世界に入って、楽屋を経たほうがいいと思うんです。自分がそうじゃなく来たのに言うには申し訳ないけど。これからの人は、生きていくために。“寄席育ち”という経歴が、どれほど本人の自信と強みになる事か。いままで活動弁士の現場に寄席の定席はなかったんだから。

――そこを坂本さんが開拓してきたわけですよね。

ウケる日もあれば、ウケない日もある

坂本 開拓というか、まあここまで色物としてドップリってことは自分より前にはいなかったんですよ。だから、もし、そういう道につなげられるものなら、また一郎さんも寄席に参入するなら、それも結構だなと。そこから道がまた二股に分かれたっていいんですよ。

©山元茂樹/文藝春秋

 一郎さんとは同世代だけど、芸風も性格も違う。ドラマとしては、この二人が仲がいいよりは、仲が悪いほうが面白いじゃないですか。でも、お互いに「よくやってるね」みたいになっちゃう。これね、だんだん人数が増えてくれば、派閥が生まれて敵対するかもしれないわけです。敵対は言い過ぎか。しかし、セ・リーグとパ・リーグみたいになったほうが活性化して、いいのかなと思うこともあるんです。

 だからそういうふうに盛り上がっていければいいんだけど、まあ、弁士は基本的には、やれることが限られてますからね。きょうもこのあとに浅草(演芸ホール)に出るわけですけれども、ウケる日もあれば、ウケない日もあるし。昔、活動写真館に出演していた弁士っていうのは、こういう気持ちを、こういう勉強を肌で体得していたという気がしますよね。昔はヤジも飛んだ、ミカンの皮も飛んだというしね。だから毎日出るってことは得難い修行ですね。

 いま、坂本頼光(らいこう)としては誠に幸福です。坂本頼光(よりみつ=本名)としてはわからないけど(笑)。