フランスのリュミエール兄弟が映画を発明してから今年(2025年)で130年。映画はそのころ明治時代だった日本にもまもなくして上陸し、活動写真と呼ばれた。初期の映画にはまだ音声がなく、映像に解説やセリフをつける「活動写真弁士」という日本独特の職業が誕生する。明治から大正、昭和初期にかけて人々は、チャップリンやキートンなどの喜劇も、尾上松之助、阪東妻三郎などのスターを生んだチャンバラ時代劇も、弁士の名調子の語りとあわせて楽しんだ。
「活動弁士」「活弁」とも呼ばれた彼らは互いに話芸を競い合い、それぞれに熱烈なファンがついて人気商売となる。その勢いは、いまのYouTuberに匹敵するかもしれない。だが、1930年代以降、トーキー(音声のついた映画)の普及にともない大半の弁士は失職していった。
それでもその芸は細々とではあるが継承されてきた。今春、その活動弁士から坂本頼光さん(46歳)が、芸術選奨の文部科学大臣賞新人賞(大衆芸能部門)に選出された。折しもAIの普及により人間から多くの仕事が奪われるのではないかとささやかれるこの時代、100年近くも前にトーキーに仕事を奪われたはずの活動弁士が、こうした形で再評価されたというのが痛快ではないか。
今回の受賞をきっかけとして、坂本さんに活動弁士を生業とするまでの軌跡、現在の仕事、そして将来の展望にいたるまでたっぷり話をうかがった。インタビューを収録したのは、彼がこの道に進むにあたり最初に門を叩いたゆかりの場所、東京・北綾瀬のマツダ映画社である。(全3回の1回目/続きを読む)
◆◆◆
大河ドラマ、名匠監督の映画でも活躍
――このたびは芸術選奨文部科学大臣賞新人賞の受賞、おめでとうございます。
坂本頼光さん(以下、坂本) ありがとうございます。 ついに新人賞というか、やっと新人ですよ。
――私(ライターの近藤正高)が坂本さんとお会いするのは6年ぶりですね。前に会ったのは、NHKの大河ドラマ『いだてん』に坂本さんが活動弁士の役で出演されたときで、それをみんなで一緒に観ようということになって……。
坂本 それが、いざオンエアを観たら、自分の出番はものの15秒ぐらいで。収録では無声映画の『不如帰』をほとんど通しでやったはずなんですよ。しかも、ものすごい引きの画で私かどうかすらわかんない。一応、声でわかるけど。
俳優・成田凌に活弁を指導
――でも、映像はちゃんと再現してありましたね。明治時代の無声映画と同じように女性の役をちゃんと女形がやっていて。……その『いだてん』が2019年で、周防(正行)監督の『カツベン!』(2019年12月公開)に出演されたのと同じ頃ですね。
坂本 撮影したのは2018年です。私は(出演とあわせて)主演の成田凌さんと永瀬正敏さんにご指導したんですけど、自分には活弁の師匠がいないので大変でしたよ。また、私は感覚的な人間なんで、成田さんが苦しんだわけです。

