陰の部分も隠さず、ストレートに表現する

 名古屋でのライブではまた、前半のクリープハイプのステージで尾崎がanoに提供した「普変」(2022年10月リリース)を彼女とともに歌った。同曲は尾崎のラジオ番組『尾崎世界観の悩みの羽』(文化放送)に出演した彼女が、自分は普通にやっているつもりなのに「変」と言われることが多くて、どうしたらいいか悩んでいると相談した流れから、「尾崎さんがそういう曲を書いてくれたら僕もみんなも救われます」と頼んだのを受けてつくられた。

 anoは「普変」を「命綱のような曲」と表現し、そのあとの自身の単独ステージでも再び、その思いを込めるように歌い上げた。anoのライブを観るのは初めてだった筆者も、彼女が本当にライブを大事にしていることが実感できた。観客のなかには、彼女の歌や言葉に涙ぐむ女の子も結構いたようだ(暗がりだったのではっきり確認したわけではないけれど)。

ano「普変」(ano公式YouTubeチャンネルより)

 自分の陰の部分も隠さず、ストレートに表現する彼女の言動に、救われたという人たちは少なくないらしい。アイドルグループ「ゆるめるモ!」に在籍中より、彼女に共感した「あのちゃんギャル」と呼ばれる熱狂的な女性ファンがついていたという。当時のインタビューでは、《ぼく、誰かのために生きられない人間なんですよ。だけど、そういうコたちがいなかったら今のぼくは存在していないわけだから、本当にファンの人には感謝してます。自分自身にとっても、こうして活動を続けられている理由のひとつになってるので》と語っていた(『週刊プレイボーイ』2019年3月18日号)。こうしたファンへの思いは現在も変わらない。

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クリープハイプの尾崎世界観(右)と(あの公式Xより)

ハードロック好きの父、優秀な兄へのコンプレックス

 そもそも彼女が音楽を拠り所とするようになったきっかけは、中学時代に不登校で引きこもりになったときにさかのぼる。

 あるインタビューによれば、父がハードロック好きで、家ではいつも音楽が流れていたものの、音楽も勉強も優秀だった兄へのコンプレックスから、音楽を避けるようになったという。それがこの時期に《やることがないからネットを見るじゃないですか。すると音楽が流れてくるから、ずっと避けてたものが身近になったんです。音楽だけが寄り添ってくれたというか》と語っている(『BRUTUS』2021年12月1日号)。

 ゆるめるモ!を知ったのもホームページでメンバー募集しているのを見たからだった。バンドができそうな感じだったので気になってメールしたところ、プロデューサーから返信が来る。しかし、当時は人と会うのがいやでしばらく放置していたら、それでも先方は何度もメールをくれ、とりあえずライブを観てもらうだけでもいいと言うので、彼女もようやく重い腰を上げた。