「このままでは死ぬだけだし」グループ加入はなりゆきで

 プロデューサーとは初対面時、目も合わせられなかったが、「ゆくゆくはバンドとかやりたいから、入ってほしい」と熱っぽく誘われたという。通常なら面談を受けるところを、彼女だけは自分の決断次第で加入が決まっていたというから、先方にはよっぽど感じるものがあったのだろう。

 本人は《自分のことなにもわからないのにそれでも、プロデューサーさんが「一緒にやりたい」って言ってくれて、求めてくれたっていうのがはじめてだったんで、たぶんうれしかったんだと思います。/それにやることが無くて、この先どうしようこのままでは死ぬだけだし。と思ってそのなりゆきで入りました》と、グループに入った経緯を説明している(「タウンワークマガジン」2016年10月5日配信)。

ゆるめるモ!時代のあの(ゆるめるモ!公式Xより)

シャウト、ダイブ…アイドルの枠にはまらない自由さ

 こうして2013年9月にゆるめるモ!に加入したものの、ほかのメンバーみたいに上手くアイドルとして活動できないので、しだいにそれをぶち壊したいと思うようになったという。ライブでは、気だるそうにステージに立ったかと思えば、いきなり奇声を上げたり客席にダイブしたりと、自由なパフォーマンスを繰り広げる。彼女いわく、《それを3年4年と続けてたら、どんどんアイドル業界も変わってきて。少し変でも大丈夫になって、パフォーマンスもシャウトもダイブなんかも普通になってき》た(『ロッキング・オン・ジャパン』2022年10月号)。ちょうど“楽器を持たないパンクバンド”を称したBiSHなど、従来のアイドル像を覆すグループが続々と出てきた頃だった。

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ゆるめるモ!「文学と破壊EP」(2015年)

脱退後は「もう何もやる気がなかった」

 しかし、変だったことが普通になるとかえって飽きてしまい、《そういう自由なところの自由って僕はあまり魅力的に感じなくて。もういいかなって》(同上)。そんな理由もあって、2019年にゆるめるモ!を脱退する。そのあとソロ活動を始めるまでのあいだの心境を、のちに次のように明かしている。

《グループを抜けたあと、もう何もやる気がなかったんです。無気力な状態が続いていて。でも、無気力だけど無感情ではないから、感情だけはどんどん溜まっていく。だけど吐き出すところは何もないし、そうしてると自分が自分じゃなくなっていくというか、一時期そういう感覚に陥って。自分はやっぱり何か表現したほうがいいのかな、やってみようかなって。最初は作品をリリースしようとは思っていなかったから、誰かに聴いてもらうために書くというより、とにかく感情をどっかに出すために作ってました》(同上)

あの ファースト写真集『ANOther』(2019年、集英社)

「ano」名義で音楽活動をまずインディーズから始めたのは、グループ脱退から1年後の2020年9月だった。翌年にはソロ活動とは別に、4人組バンド「I's(アイズ)」を結成し、ボーカル&ギターを担当している(2024年末に解散)。