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クスノキを黒焦げにした原子爆弾の破壊力
強烈な爆風と熱線で枝葉を失い、途中から折れた太い幹だけとなった2本のクスノキ。その黒焦げの姿が境内に残されていたという。
こうなっては、もはや風前の灯火。「75年、草木の生じることはなし」と言われた長崎において、樹齢約500~600年の命も尽きたかと思われた。
ところが、2ヶ月ほど経つとクスノキに緑色の小さな新芽が姿を現す。それは順調に成長し、次第に樹勢が回復。数年をかけて奇跡の復活を遂げたのだ。
この日の長崎市の最高気温は33.3度。じりじりと照り付ける太陽の下、クスノキが作る木陰は涼しく、爽やかな風にホッとする。
さやさやと風を受けて聞こえる“被爆クスノキ”の優しい葉ずれの音は、環境省の「残したい日本の音風景百選」に選ばれている。
……平和だ。原爆で地獄のような苦しみを味わった人々に対して、申し訳ないくらいに。
そんな2本のクスノキには、しめ縄が結ばれている。必然的に、参拝者はお参りするため2本に渡されたしめ縄の下を通らなければならない。
神社の鳥居が片足のものだけとなってしまった今、実はこれが神域とその外を隔てる結界としての役割を果たしている。心配ご無用。神様はしっかりと守られていた。
境内に敷かれた石畳を歩き、その先にある社殿へ向かう。二礼二拍手一礼をして、祀られた神様たちにご挨拶。
おみくじを引き、さあ立ち去ろう……としたところ、社殿の右奥に赤い鳥居を見つけた。木造の小さなものだ。



