「ベンチがアホやから野球がでけへん!」

 これまで数多の名場面・迷場面が繰り広げられてきたプロ野球。中でも有名なのが、まだ上下関係の厳しい昭和の時代に、1人の選手から発せられた、首脳陣を痛烈に批判するこの爆弾発言だ。

 当の本人、球界のご意見番として“エモやん”の愛称で親しまれる江本氏の新著『ベンチには年寄りを入れなさい』(ワニブックス)から、爆弾発言の真相をお届けする。(全3回の2回目/続きを読む)

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「ベンチがアホやから」発言をした1981年、9月当時の江本氏 ©文藝春秋

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 悲劇のヒーロー小林が来るというので、安芸の阪神キャンプは大騒ぎになった。1本しかない国道は大渋滞で、四国中の人が集まったのかと思うほどだった。キャンプ宿舎で新監督のブレイザーに呼ばれた。

「こんな大騒ぎになっているが、私が信頼しているのはお前だけだ。もちろん、小林は小林でやってもらうが、お前が一番頑張ってくれよ」

 外国人監督が日本野球や日本人選手を下に見て、選手と衝突するのではないかという私の心配は取り越し苦労だと感じた。こういう気遣いができるのかと驚きもした。そして、私はその言葉ひとつで忠誠を誓った。よし、この異国から来たおっさんのためにやってやろうじゃないか――そう心に決めたのだった。

 単純と言われるかもしれないが、目と目を合わせて話をし、心が通じれば人は動く。私にとって阪神での3人目の監督となるブレイザーは、阪神で初めて出会ったインテリオヤジ監督だった。