8月14日、「羅臼岳ヒグマ襲撃」はなぜ起きたのか。羅臼岳のある知床半島は世界有数のヒグマ密集地域として知られるが、「北海道新聞」によると、記録が残る1962年以降にまで遡っても、知床連山の登山道でヒグマによる人身事故は確認されていないという。今回の事故の“予兆”ともとれる事案とは、どのようなものだったのか。(全2回の2回目、前編を読む)
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事故の“予兆”が報告されていた
実際に、今回の事故の“予兆”ともとれる事案があった。知床財団が8月21日と9月1日に発表した事故に関する報告書(「2025年羅臼岳登山道におけるヒグマ人身事故に関する調査速報」第1報、第2報)には以下の2つの事案が報告されている。
【事故4日前の8月10日】事故のあったのと同じ岩尾別コースで0歳の子グマ2頭を連れた親子グマが目撃される。この親子グマは人間の存在を気にせず登山道を登ってきたが、登山者がクマスプレーを構えたところ、クマは後退した。
【事故2日前の同12日】同じ登山道で目撃された成獣ヒグマが登山者に接近、登山者がクマスプレーを使用(微量)したところ、クマは一時離れた。だが、その後も約5分間にわたり、登山者に近づいたり離れたりする行動があった。
この2件については、外見上の特徴から事故を起こした加害グマと同一個体である可能性が高いというが、とくに後者については、スプレー噴射後も登山者につきまとっているともとれ、かなり危険な状態だったと言える。
また報告書(第2報)は、加害グマがよく出没していた岩尾別地区において7月29日に〈ヒグマへの餌付けが疑われる事案が発生しているが、捕獲個体との関係性は不明〉としている。「南知床・ヒグマ情報センター」の藤本靖が言う。
「加害グマが事故以前に、本当に餌付けされていたかどうかはわかりません。ただ少なくとも人間を恐れない“人慣れグマ”であったことは確かです。こういうクマは、普段は大人しく見えても、何かの拍子に“攻撃のスイッチ”が入ってもおかしくはない」

