クマ対策の大原則は「出遭わないようにすること」にあるが、今後はそれだけではすまなくなる可能性もある。今回のケースのように不意に襲われることも十分ありうるのだ。

「クマの生活圏である北海道の山林に入るときは、出遭わないためにクマ鈴やラジオを持つことはもちろんですが、まさに出遭ってしまった場合の備えが必要だと思います。すぐ思いつくのはクマスプレーですが、今、ネット上で売られているものは玉石混淆で、本当にクマに対して効果があると認められているのはごく一部です」

札幌市内の茂みに隠れていた158キロのオス ©時事通信社

クマスプレーだけでは不十分

 実は今回の事故でも、友人のBさんは〈「クマよけスプレー」と謳っている商品を所持していたが、ヒグマに対応した製品ではなく、かつ再利用品であった。事故発生時の初期対応において使用を試みたが、噴射できていない〉(前出・報告書)という。

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「命を守るためなら多少高価でも『カウンターアソールト』のように米国環境保護庁(EPA)による認証がついているものを選ぶべきだと思います。ただスプレーを噴射するには、ある程度クマとの距離が必要で、今回のような不意の遭遇でうまく噴射することは難しい。スプレーだけでは不十分で、個人的には最低でも小さな登山用ナイフも持参すべきだと思います」

 短いナイフでクマと渡り合うことが可能なのだろうか。

「渡り合う必要はなくて、クマをひるませれば十分。だとすると、刃渡りの長いナイフを振り回すよりも、短いナイフで最短距離でクマの横っ面を狙う方がいい。うまく耳の穴に刺されば確実にひるみますし、狙いが外れても耳の下から顎にかけて太い血管があるので、そこを傷つけることができるかもしれない。万が一の場合、そのナイフがあるのとないのとでは生存率が変わってくる。そこまで考えないといけない時代に突入したと思います」

 それが「クマとの共生」を目指した社会の偽らざる現実なのである。

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