古屋は確かに異常性格だったかもしれない。だが、控訴審の逆転死刑判決と「竹ベラ事件」の関連は不明だが、精神鑑定の結果と控訴審判事の判断はいささか冷淡すぎたのではないか。「人間違い」か「身代わり」かの問題は公判や精神鑑定では重視されず、「間違い」「人違い」で統一された。確かに、何の罪もない農村の一女性である被害者には同情すべきだし、残虐な犯行は許せないが、報道を見ていくと、新聞も世論も死刑判決を期待していたことがうかがえる。そして、控訴審判決はそれを受け止めた――。そうも考えられる。公判で事件の内容をもっと詳細に調べる必要があったのではないか。私が弁護人なら、間違いなく控訴審で再度精神鑑定を申請する。

「ワンダフル二九ストーリー」

「高階村バラバラ事件の精神鑑定例」には、古屋が両親宛てに出した手紙の、「詩」とは呼べそうもない不思議な短文が紹介されている。

ワンダフル二九ストーリー

皮二九な年二九年に二九才の男が九月に一九娘の二九を切り二九まれた。

二九才の男を同日頃に皮二九にも一九才の時知り合った女が尋ねた。

皮二九にも会えない不思議にも二九年十一月一九日逮捕、皮二九な事であろうという訳である。

では皆様も身体にしてください。

古屋栄雄(「新潮45」より)

「二九」と「肉」をかけ、いろいろ偶然の数字を集めたのだろうが、見ず知らずの女性を殺してバラバラにした男がこんなことをするか、と驚き、あきれる。常人の神経ではないと言えば簡単だが……。このあたりにも、古屋が70年の時空を超えて現代に生きているような錯覚を覚える。

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 作田明「頻発する『バラバラ殺人』犯人の『心の闇』を解剖する」=「作田明遺稿集『精神医学とは何か?』(2011年)所収」は、最近のバラバラ殺人の傾向について、「ひ弱で傷つきやすい一方、自尊心が高く、自己中心的な行動をとりやすい自己愛的な人々が若者を中心に増えていることが背景になっているかもしれない」とした。

「座間9人殺害事件」(2017年発覚)や「すすきの男性殺害事件」(2023年)のように、殺害し遺体をバラバラにする事件は後を絶たない。古屋栄雄の言動と重ね合わせてみると、彼は過去の人ではないのかもしれない。


【参考文献】
▽加賀乙彦『死刑囚の記録』(中公新書、1980年)
▽作田明遺稿集『精神医学とは何か?:犯罪学と病跡学からのアプローチ』(世論時報社、2011年) 

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