阿信は脚本にも協力、さまざまなアドバイスや意見を
しかしながら、ユー監督は本作をいわゆるホームビデオや家族のアルバムのようにとらえていたわけではない。「大切なのは家族の経験をそのまま語ることではなく、リアリティあふれる物語、普遍性のある作品にすることでした」と語る。
「自己陶酔に決して陥らないよう、脚本を執筆する段階で、自分自身と物語の距離を取るよう心がけました。最も大切なのは、人生の『意外』な困難に立ち向かう勇気が湧いてくるような映画にすること。ですから、これは僕自身の話であり、けれども僕の話ではないんです」
脚本開発には阿信も協力し、さまざまなアドバイスや意見を提案した。相談を持ちかけた時点で脚本は完成に近づいており、その内容を口頭で説明したところ、阿信はすぐに理解してくれたという。「当初から物語自体は変わっていませんが、登場人物の感情にどのような深みを出すのか、男女2人の気持ちをどう掘り下げるかを一緒に考えてくれました」
映像と音楽の世界で長年のキャリアを誇るユー監督だが、「私にとって、この映画は初めての真にクリエイティブな創作活動」だという。
「MVやCMを20年以上撮ってきましたが、これらはクライアントやアーティスト、あるいは彼らの音楽に対し、知識と能力をもって奉仕する仕事。消費者やファンの皆さんに作品を届けることが使命です。けれどもこの映画は、あくまでも私個人が伝えたいこと、この世界に共有したいことがあって動き出しました」
創作にはMVやCMを手がけた経験やノウハウが活かされたが、「長編映画は作り方が違った」と話す。「尺が5分前後のMVとは異なり、映画は約2時間を費やし、伝えたい情報やメッセージ、人間の感情などを、観る人の印象に残しながら描かなければいけません。撮影期間中も学ぶことばかりでした」と振り返った。
阿信とともにプロデューサーを務めたのは、『1秒先の彼女』や『ひとつの太陽』など近年の台湾映画を代表する話題作を送り出してきたイェ・ルーフェン(葉如芬)。ユー監督は「彼女のおかげで台湾最高峰のスタッフが集まってくれました。本当に貴重な経験ができました」と感謝を述べた。

