9月7日に閉幕した第21回大阪アジアン映画祭で最も観客の涙を誘ったのは、40代キャリア女性の予期せぬ妊娠を描いた台湾映画『私たちの意外な勇気』だった。自身の実話をもとに映画化した監督に単独インタビュー、本作と台湾のロックバンド「五月天(メイディ)」の関わりや久しぶりの長編映画主演となった歌手レネ・リウについて聞いた。
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五月天のギタリスト石頭とは学生時代からの大親友
台湾の人気ミュージックビデオ(MV)監督が、20年以上のキャリアを経て映画監督に転身した。同じく台湾の国民的ロックバンド「五月天(メイデイ)」のボーカル・阿信(アシン)がプロデューサーを務めるなど、音楽界と映画界の精鋭が一堂に会した力作だ。
台湾映画『私たちの意外な勇気』(原題『我們意外的勇氣』)は、6月に台北映画祭でワールドプレミアを迎え、第21回大阪アジアン映画祭で日本初上映。監督・脚本のショーン・ユー(游紹翔)に、単独インタビューで創作の裏話をじっくりと聞いた。
きっかけは、コロナ禍のさなかに自身の体験を映画にしようとひらめいたこと。ユー監督と五月天のメンバーは学生時代からの友人同士で、本作は「今も大親友」だというギタリストの石頭(ストーン)の一言から始まったという。
「台湾でコロナウイルスが猛威をふるい、誰もが今後の仕事を心配していたころ、石頭とお酒を飲みながら話していたんです。彼が『映画の脚本を書いてみたら?』と言ってくれたことがすべての始まりでした」
MVを手がけるようになる以前、ユー監督は大手レコード会社「滾石唱片(ロックレコード)」で企画を担当していた。当時の五月天はこの会社に所属しており、アルバムの製作にも一緒に携わっていたという。のちにMV監督となったあとも、監督とミュージシャンとして長年にわたる共同作業を続けてきた。
ボーカルの阿信について、ユー監督は「私たちの世代で、彼よりも人気があり、また尊敬されている台湾のクリエイターはいません」と言う。
「映画を作ろうと考えた時、彼に相談するのは自然なことでした。『こんな映画を作りたい、創作のプロセスについてアイデアやテクニックを教えてほしい』と話したら、喜んで協力してくれ、資源や影響力を惜しみなく注ぎ込んでくれました。彼なくしてこの映画は完成しなかったでしょう」

