見よ! この艦橋が2つも聳えるシルエット。これこそが大英帝国が誇る最新鋭空母である。

 その名も「プリンス・オブ・ウェールズ」。英皇太子の名を冠するロイヤル・ネイビー、つまり英国王室の船である。

 前方の艦橋は航海用・作戦用で操舵室があるのに対して、後方の艦橋は航空機管制用で飛行甲板にせり出した管制室がある。だが、艦橋が2つあるのはそれだけではない。

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 敵の攻撃を受け艦橋のどちらか一方が破壊されても、もう一方で指揮をとれるようにと、実戦的な理由もあるようである。さすが16世紀にはスペイン無敵艦隊を壊滅させ、トラファルガー海戦でナポレオンを退けたロイヤル・ネイビーである。薩摩や長州藩が束になっても敵わなかったはずである。

撮影=宮嶋茂樹

 他国の空母のように、もう少し大きな艦橋ひとつにしたほうがクルーや情報の共有もスムーズにできるのではと、素人的には安易に考えてしまうが、これが、5世紀にもわたって海戦に勝利し続けてきた伝統を維持しながら、近代海軍へと変貌を遂げた海洋国家英国の合理主義というものなのだろう。

 艦体サイズも米海軍の原子力空母には若干及ばぬものの、満載排水量6万5000トンは実質空母化された護衛艦「いずも」「かが」の約3倍である。

 

飛行甲板に並ぶ黒光りの翼

 その飛行甲板に立錐の余地もないほど並ぶ黒光りの翼こそF-35のB型、通称「ライトニングⅡ」である。目を凝らせば、ステルス性を帯び斜めに傾いた尾翼に愛称通りライトニング(稲光)がロービジブル(識別しにくい)で描かれているのが見える。

 

 今年8月に航空自衛隊に3機配備されたばかりの世界唯一のステルスSTOVL(短距離発艦、垂直着艦)戦闘機であるF-35Bの24機を含め、ヘリなど40機以上が搭載・運用されているが、今回の日本寄港時は18機のF-35Bが搭載されていた。

 

 この英皇太子の名を冠する空母は2017年、当時のチャールズ皇太子のカミラ夫人が見守る中進水。その2年後には母港をポーツマスとし、HMS(Her Majesty Ship)R09、つまり当時の女王陛下の船として正式に就役、現在はCSG(Carrier Strike Group)25つまり英国空母打撃群の旗艦である。

 日本へは4年前の同型艦「クイーン・エリザベス」に続いての初の寄港となった。4月に母港を出航、「ハイマスト作戦」と銘打たれた8カ月にも渡る長期航海となる予定で、日本寄港はちょうど折り返し地点となる。