「僕は実家の造り酒屋を継がなきゃいけなかった」

佐々木 僕は実家の造り酒屋を継がなきゃいけなかったので、ちゃんと営業できるように、人前でも話ができるように、父から学生時代に弁論部に入ったという話を聞いていて。あるとき、神戸大学の新入生向けのオリエンテーションで、たまたま高校で同じクラスだった同級生に会ったんです。

 彼も僕と同じように大学を受け直して神戸大学に入学したばかりで、「演劇サークルの新入生歓迎公演のパフォーマンスが面白かった」と言うので、「ほないこか」って。すでに上演開始から20分くらい経ったタイミングで、途中から観たんですね。学生会館の会議室で、舞台といっても平台の上にイントレ(移動式の足場)を組んだだけ、手を挙げたら照明に手が触れるようなつくり。窓は段ボールで目張りして暗くしてあって、僕らは床に敷かれたござの上に座って観て、学生たちが芝居をしている。自分たちがつくったネタを披露して、面白く演出したりする様子に、あーっとなりました。僕はこれまで一途に受験勉強をしていたけれど、大学生になったら、こんなお遊びみたいなことを夢中にやれるんだ、と。

 公演後、僕と同級生が勧誘されて、その場で入部を決めました。二人でベランダに出て、「どうする?」「入ろか」って、なんとなく決めたのかな。逆に先輩に、「いやいや君らそんなすぐに決めなくていいよ」と止められたくらいです(笑)。

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東京農業大学→地元で国立大学を再受験

――ちなみに1年間通われていた東京の大学というのは、東京農業大学。伺ってよろしければ、なぜ大学を受け直されたのでしょう。

佐々木 (しばし考えて)私立なので、お金がかかるんでねえ。東京ですし、私立ですし、理系ですし、お金がかかる。だったら、地元のほうで(国立大学を)受け直そうかなと思いました。

――大学1年生で、ご実家のご負担を考えられて……。京都の老舗の後継ぎの方たちのお話を伺っていると、プレッシャーや葛藤などなかったのかなと、想像してしまいます。