『生きる言葉』(俵万智 著)新潮新書

 ネットでのやりとりが日常となり便利になった半面、さまざまな問題も起きている。互いの背景も知らない相手と言葉だけでコミュニケーションを取らなければならない場面も多く、ちょっとした言葉の使い方によって行き違いが生じ、分かり合えなさを感じることもあるだろう。“言葉をつかいこなす力は生きる力と言ってもいい”と語る歌人である著者が、実体験を踏まえて現代の言葉を考察した本書。発売から半年弱で10万部のヒットになった。

「もともとは『俵万智という生き方』をテーマに、人生論を語っていただきたいと考えていましたが、人生について語るより言葉を軸にしたいとお申し出が。そこで言葉論とも呼べるものを書いていただくことになりました」(担当編集者の阿部正孝さん)

 著者が日々を送る中で感じた言葉についてのあれこれをいきいきと綴る。考察対象は現代短歌や和歌はもちろん、子育てから、芝居の言葉、日本語ラップやAI、はてはSNS上の“クソリプ”まで。守備範囲の広さには驚くばかりだ。当初は「届く言葉」というタイトルで進めていたが、ハウツー本のような印象を与えかねず、最終的に著者の提案で本タイトルとなった。

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「著者は、上から目線で書くようなことは一切せず、自分の発した言葉が生きる言葉になるために大切なことを楽しそうに書いておられます。断続的に十数回届いた原稿を並べるにあたり、子どもが言葉を獲得するところから始めました。一般的に新書の読者は中高年男性が多いですが、本書は20代~40代を中心に女性読者が6割もいるのは、そのあたりが響いたからなのかもしれません」(阿部さん)

 発売直後から評判を呼んだが、そのしかけにもなったのが帯の著者近影だ。著者のデビュー作となった『サラダ記念日』の表紙と同じポーズで撮ったそう。

「『サラダ記念日』は他社から出版されましたが、実はあの写真は、弊社写真部が撮影したものなんです。けっこうしんどいポーズらしいのですが(笑)。多数のヒット作を持つ著者ですが、言葉論は初チャレンジ。そこで原点回帰という意味も込めて、38年ぶりにやってみませんか、と提案。あの写真を覚えている世代にとっては、懐かしさを感じる帯になったと思っています」(阿部さん)

2025年4月発売。初版1万部。現在8刷10万3000部(電子含む)

生きる言葉 (新潮新書 1083)

俵 万智

新潮社

2025年4月17日 発売