だが、終わりは突然やってきた。金沢から「警察から連絡があったら、『金沢さんは単なるお客さんです』と答えてくれ」と指示された。後日、警察官を名乗る者から電話があった際に指示通りに話したが、「被害者の方、全員が最初はそう言うんですよ。一度、警察署に来てください。ブラックオールなんて組織はないんですよ。全部あの男の作り話なんですよ」と教えられた。
純子さんはなかなか洗脳が解けなかったが、警察官が粘り強く説得し、他の被害者の存在なども話した。半信半疑で警察署を訪ねたところ、「絶対に手を出して欲しくない友人や知人」として連絡先を書いた実姉や親友が同じ被害に遭っていたことを知って愕然とした。実姉とは同じ屋根の下に住んでいたのに、お互いに金沢の話を信じ切ってしまい、一切口をつぐんでいたのだ。
「犯人男」のその後
金沢の正体は元銀行員の小西康之(当時48)。15年前にも同じ手口で5人の女性を毒牙にかけ、懲役8年の刑を言い渡されて服役していた。当時の手口は営業活動で外回りをしている途中、駅の駐輪場に置かれている自転車に書かれた名前や住所や電話番号を控え、女性に脅迫電話をかけていた。
「関西連合のモンや。関西で女の名前を載せたリストを暴力団に売っている。売られたら、いつさらわれて風俗店に売り飛ばされるか分からんで。言うことを聞かなければ家族も殺されるかもしれん」
暴力団を装った脅し文句を使うと、3割の女性が呼び出しに応じたという。これに味をしめた金沢こと小西は仮出所後、22日で犯行を再開。純子さんのことは店で名札を見て知り、「かわいい子だと思い、以前の手口で呼び出してしまった」などと供述した。
今回は同様の手口で中学生から20代までの27人もの女性を毒牙にかけていたことが発覚。そのうち告訴を受けた20人に対する146回の犯行が裏付けられて強盗強姦などの罪で起訴された。
裁判所は「被害者に暴力団組織から狙われていると信じ込ませ、口外すれば家族や友人が殺されるなどと脅し、指示に従わざるを得ない状況に追い込んだ。被害者が極めて多人数で年少者も対象にしており、悪質性が際立った犯行だ」と断罪し、求刑通り無期懲役を言い渡した。
