「『じゃあ、苗を持ってこい』と引き受けてくれたんですが、『農薬や石灰、除草剤を使ったらあかん』って言ったら、『おまえ……わしを殺す気か?』って言われましたわ(笑)。それでも『ぼけへんためにも、ここの畑1枚分(1区画)でいいから』とお願いしました」

そこからジャガイモづくりの輪は、少しずつ広がっていく。「わし一人ではムリや」と言う牧場主のつてもあり、高砂市や姫路市の農家が生産を引き受けてくれるようになった。

近隣の淡路には、特産の玉ねぎがある。その苗を地元の農家に持っていき、生産を頼んだ。コロッケの材料はこうして出そろった。

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1日200個しか「作れない」

「極みコロッケ」の秘密は、食材へのこだわりだけではない。新田さんが考え抜いた手間暇のかかる工夫にある。

例えばジャガイモ。糖度が高い「レッドアンデス」を収穫し、そこから3カ月間冷蔵庫で追熟させてさらに糖度を上げる。

皮むきは蒸した直後、ホクホクの状態で必ず人の手で行う。新田さん曰く、「ジャガイモの芋と皮の間に薄皮というのがあって、ここが一番美味しい」という。自動の皮むき器では、薄皮は皮ごと削られてしまうから使わない。玉ねぎもフードカッターで一気に切ってしまうと、素材の味が損なわれてしまうから使わない。

冒頭で述べたように、このコロッケは1日200個しか作らない。より厳密に言えば、200しか作れないのだ。これらの話を聞いて、大量生産が難しい理由に頷けた。過去に製造委託を試みたこともあったが、工場では手作業の工程が再現できず、味が大幅に落ちてしまったため断念したという。

「原材料も調味料も1gも変わらないんですけど、食べたら全然違う。担当した工場長もびっくりしていました。『なんでこんなに違うんやろうね』って。ジャガイモを蒸す。熱いうちに手で皮を剥く。タマネギは手でみじん切りにする。それを飴色になるまで炒める。この作業はやっぱりもう工場でできひん」