「地元で牛を飼ってる人やその子どもとよく飲みに行くんです。『この子が今こういう気持ちで育てた牛なんだな』とか、『このおっさんがええエサで、ええ環境で育てた豚なんや』とかね、よう知ってるから。こういう人の気持ちを、どうやってダイレクトに消費者に伝えるかというのが僕らの仕事だと思っているから。それを一生懸命やることで、利益は後でついてくるやろうと思ってます」

精肉店が生産者と消費者をつないでいる。そんな新田さんの自負を感じた。

取材中に気になったことがある。新田さんに休日はあるのだろうか。午前中は本店、午後は神戸の2号店、日によって精肉市場の競りに自ら向かう。

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「僕は休めないですね。引退したらゆっくり旅をしたい」というが、それはもう少し先になりそうだという。お盆をひかえたこの日、ふと思い出したように、彼はこう語った。

「お盆の時期はね、懐かしいお客さんに会えるんです。昔、汗臭いグローブ持ってコロッケ買いに来てた野球部の子が、大人になって『おっちゃん、覚えてくれとんの?』って来て。『どうしてもここの味が忘れられへんかった』って言うんです。長い商売やってると、そういうのがあるんやなぁと。だから、部活帰りのチャリンコで店に寄ってくる子らは大事にしないとって思う。将来のお客さんやからね」

またあのコロッケが食べたい――。そう思わせる商品を生んだ新田さんは、どこまでも「食」と「人」を愛していた。

池田 アユリ(いけだ・あゆり)
インタビューライター
愛知県出身。大手ブライダル企業に4年勤め、学生時代に始めた社交ダンスで2013年にプロデビュー。2020年からライターとして執筆活動を展開。現在は奈良県で社交ダンスの講師をしながら、誰かを勇気づける文章を目指して取材を行う。『大阪の生活史』(筑摩書房)にて聞き手を担当。4人姉妹の長女で1児の母。
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