「売れれば売れるほど赤字」の戦略

いくら素材にこだわっても、認知されなければ商品は売れない。このコロッケが、いかにして多くの人々に知られることになったのか。人気に火をつけたのは、2003年に神戸新聞に掲載された記事だった。

新田さんは、農家に対し「ジャガイモの栽培に牛糞(ぎゅうふん)の肥料を使用するのはどうか?」と勧めた。そのおかげで、ジャガイモが良く育った。その茎はいずれ牛の餌になるため、循環が生み出されることに注目した記事だった。

すると、このユニークな取り組みがマスコミ各社の目に留まる。全国ネットのテレビ放送で紹介されると「極みコロッケ」は瞬く間に5年、6年待ちとなり、放送後には10年待ちとなった。

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「原材料を出し惜しみしちゃいけない」と語る新田さん。発売当時の原価は400円だったが、販売価格を300円に設定。売れれば売れるほど赤字だが、彼なりの戦略だった。

「また注文してもらおうと思ったら、一口食べた瞬間に『めちゃくちゃ美味い!』ってならなあきません。このコロッケを食べてもらったら、次は一緒に肉の注文が来るって確信しとったんです。結果的に、半数の方がコロッケとともに牛肉をリピートしてくれました」

作っても、作っても、追いつかない

発売当初は週200個しか作っていなかったが、注文が3年待ちになった時点で1日200個に引き上げた。2人体制で製造しても生産が追い付かなかった。

「製造場の広さで人件費や今までの生産の段取りだと個数が限られるんです」と新田さんは言う。極みコロッケはリピート率が9割にも達し、一度食べた顧客が再注文。さらに口コミで広がり、注文が積み上がり、結果的に現在は43年待ちの状態になった。

私も試しにオンラインで注文してみた。すると、

《商品は「2068年9月の出荷予定」となります。》

との返信がきた。

「2068」という数字に、思わず噴き出してしまった。その頃には、私は80代になっている。「元気に生きているのだろうか?」「そもそも登録した住所に住んでいない可能性が高くないだろうか?」と心配ばかりが頭をよぎった。