6歳で芸能界入り、“選ばれし子役”時代

 2022年、新海誠監督のアニメ映画『すずめの戸締まり』のヒロイン・すずめの声で一気に人気が拡大した原。以後は、『【推しの子】』実写版の有馬かな役や、映画『ミステリと言う勿れ』(23年)、主演映画『見える子ちゃん』(25年)、ヒロインをつとめた『ババンババンバンバンパイア』(25年)と出演作は目白押し。NHK大河ドラマ『どうする家康』(23年)では千姫役と順調に活躍している。それは現事務所、トライストーン・エンタテイメントに移籍してからで、理想的なキャリアアップ転職となった。

 原菜乃華が芸能界に入ったのはかなり早く、6歳のときだ。子役として活躍した。代表作は、監督の件で、あまり触れられなくなってしまった不遇の映画『地獄でなぜ悪い』(13年)。ここでは二階堂ふみの子供時代を演じている。「全力歯ぎしりレッツゴー」という一度聞いたら忘れられない奇妙な歌詞のはみがきのCMソングを、やたらと明るく歌って踊っていた真っ白なワンピースを着た少女が原である。バラエティ番組『おはスタ』の「おはガール」としてレギュラー出演(16年度~17年度前半)もしていた。

 元気で天真爛漫な美少女というような、選ばれし子役が手にできるポジションを、当時原は手中にしていたと言っていいだろう。その頂点は2017年の映画『はらはらなのか。』。主人公の名前は原ナノカ。原自身とほぼ同じ名前だ。芸能界の裏側を描いたメタフィクション的な野心作は、芸能界にはびこる搾取的構造やハラスメントに厳しい目が向けられるいま見ると興味深い。

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 若い女性は透明感を求められ、でもその消費期限は短く、すぐに新たな透明感にとって変わられる。それをナノカは認識している。彼女がオーディションを受けるとき、審査側は「健気なドジっ子」を期待する。それがうまくできずにナノカは悩む。ほかの女の子が審査員の前でわざと転んでみせる場面があるが、『あんぱん』ではメイコが海岸で転ぶ場面があるのを思うとなんとも皮肉に見える。

 ナノカはカメラマンに「芸術」という名のもとに、スカートの裾を誘惑するようにあげてみてと言われ、下から煽るように撮影される。「女優になりてえんだろ」「女優は騙してなんぼだろうが」「俺を惚れさせるんだよ」等々と大声で追い詰められていく。ナノカは観念したかのように白いワンピースの裾をじわじわとあげて……。

『はらはらなのか。』(DVD、Amazonより)

 刹那、ナノカはカメラを床に力いっぱい叩きつけ、その場から逃げ出す。裸足で走って走って転んだ彼女に雨が降りしきり、それは真っ黒の液体となって彼女を埋め尽くしていく。一昔前だったら、こういうシーンはありきたりな芸能界の裏側の妄想と思われたかもしれない。

 実際『はらはらなのか。』では芝居はしょせん嘘ではないか、そこにどんな価値があるのかという問題提起がされている。そのためこの一連のシーンも映画の嘘として片付けられなくもない。だが、この数年、原とは関係ないとはいえ、実際にハラスメントで苦しんできた女性がたくさんいることが明るみに出ている。それを踏まえて令和のいま見ると、監督が若い女性であることも含め、世の中の搾取された女性たちの叫びにも見えてしまう。