ほかにも、ナノカが事務所に内緒で勝手にオーディションを受けて叱られるというようなエピソードなどもあり、芸能界あるあるが満載の主演映画で、ある種の体当たり演技をしたものの、評価がさほど得られず、翌年、原は事務所を辞める。フリー期間を経てトライストーン・エンタテイメントに移籍し、その後は順調に活躍しているから、なかなかたくましい。
映画の原ナノカは健気なドジっ子がうまく演じられなかったが、原菜乃華はきっとうまく演じることができるだろう。おそらく、メイコも徹底的に考え抜いたすえの最適解である。『【推しの子】』でもアイドルの姿形や仕草を見事に再現していた。
『あんぱん』台所シーンで惜しかった点
『はらはらなのか。』を見ると原は意外と苦労人なのかなとも思う。だが、朝ドラの取材での彼女は、求められるものの再現技術についてこんなふうに自覚を語った。
「(前略)声のトーンやしゃべり方を時と場合と人によって変えようと思っていないのですが、自然に変わってしまうんですよ。例えば、お母さんが子どもを激しく叱りつけているとき、学校から電話がかかってきて『はい、もしもし○○の母です』とよそ行きの声で出るようなことと同じ感覚で、コロコロ変わっちゃうんです(笑)。役や現場に合わせて、無理しなくても、いくらでも変えられる声色を持っていることは武器なのかなと最近思うようになりました」
(出典:ダイヤモンドオンライン『「自分の声が嫌いだった」原菜乃華が“ご機嫌な人間”を演じきるまでに起きたこと【朝ドラ『あんぱん』】』2025年7月17日)
苦労人に見えたけれど、意外と天然の名人なのかもしれない。嘘を本当に見せてしまう天才。いや、でも自身を「サムライ」に例えるくらいだから、懸命に鍛錬しているのかもしれない。年齢的に朝ドラヒロインの可能性もまだまだあるだろう。もしそんな日があるとしたら、筆者のささやかな希望を記したい。
なんでも的確に再現できてしまいそうなたのもしき原が、『あんぱん』の台所シーンではそうでもなかった。例えば、第60回の台所のシーンでメイコはすりこぎをくねくねと回しているだけ。彼女だけでなく、隣の次女・蘭子(河合優実)も青物の切り方がおぼつかなかった。こういう場面で俳優が小気味よく切ったり調理したりすればこの場がイキイキと生活のリアリティが感じられるのに、惜しいと思って見ていた。
第47回で、健太郎役の高橋文哉はふだんから料理やってます感を発揮していただけに、それと比べるとヒロインに近い存在が不甲斐なくないか。今田美桜も料理シーンの手元を極力見せない。三姉妹そろって料理をしない設定か。これが現代の若い俳優たちのリアルか。いや、これすらもまた原がこの場の最適解を熟考した上での選択だったのかもしれないとまで深読みしてしまった。
令和の現代っ子でありながら、カメラの前に立ったら、料理の手際のいい昭和のヒロインを、原菜乃華がさらりと演じてくれたら最強なんだけどなあ。事務所の社長で俳優の先輩である小栗旬に意見を聞いてみたい。
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