今田美桜に任された「難しい」朝ドラヒロイン

 当然だが、脇役よりも主役は背負うものが多い。テーマを背負うのだから当然である。それだけ俳優として成長したから主役の座が回ってきたということなのだ。今田も朝ドラヒロインになるまで、様々な場数を踏んできた。

 1997年生まれの今田は16歳の時に地元・福岡でスカウトされ、2016年に上京してメジャーデビュー。ドラマ『僕たちがやりました』『民衆の敵〜世の中、おかしくないですか!?〜』『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』、映画『デメキン』などで注目され、『3年A組-今から皆さんは、人質です-』『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』シリーズ、『半沢直樹』にも出演。21年には朝ドラ初出演と映画『東京リベンジャーズ』のヒロイン役で注目度が増していく。

今田が演じた『東京リベンジャーズ』ヒロイン・ヒナタ 『東京リベンジャーズ2』公式Xより

 22年、ドラマ『悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』でテレビドラマ初主演し、以後『ラストマン-全盲の捜査官-』『トリリオンゲーム』『いちばんすきな花』『花咲舞が黙ってない』第3シリーズ、映画『わたしの幸せな結婚』と次々に出演したうえでの朝ドラ主演。オーディションながらオファーでもおかしくない人気と実力を兼ね備えたヒロイン俳優として注目された。

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 とりわけ、生方美久が脚本を書いた『いちばんすきな花』で演じた美容師・深雪夜々。外見によって男性からは好かれやすく、女性からは嫉妬されやすいという悩みを抱える夜々のナイーブな演技で俳優として評価が上がった。だからこそなのか『あんぱん』ののぶは極めて難しい役を課せられたような印象を受ける。

『あんぱん』は大人気キャラクター・アンパンマンを生み出したやなせたかしの妻・暢をモデルにした主人公のぶが夫・嵩(北村匠海)とふたり「逆転しない正義」とはなにかを探し求め「アンパンマン」にたどりつく物語。

 のぶは当初、「はちきん」(高知の言葉で負けん気の強い快活な女性)で走るのが好きなキャラという打ち出し方で、明るく元気でまっすぐな朝ドラ伝統的主人公かと思わせて、そうではなかった。

 負けん気が強すぎて、なにかにつけ嵩を「たっすいがー」(高知の言葉で「頼りない」)と大きな声で叱る。大きな声で煽るようなキャラが苦手という視聴者は少なからず存在し、のぶが朝ドラヒロインとして愛されるだろうかと心配する人もいた。ライバルキャラが主人公に意地悪しない時代、主人公だって清廉潔白なだけでなく、欠点だって暗い影だって持っている。それが昨今の朝ドラの主人公である。

女性にチヤホヤされる嵩を見ているのぶ 『あんぱん』公式Xより

 のぶの場合はさらに高いハードルが用意されていた。戦時中、教師として軍国主義を子どもたちに教育するのだ。現代的な価値観で戦争に反対する役割を担うほうが視聴者の共感を得られるが、のぶは日本が勝つことを信じて行動し、日本が戦争に負けたときに激しい絶望を味わう。子どもたちに間違いを教えてしまったことを猛烈に反省し、「生きちょってえいがやろうか」とまで思い詰めた彼女を救うのが嵩だ。嵩が作品をとおして「逆転しない正義」を見つけようとするのは愛するのぶを救いたい一心からだと解釈できる。

 のぶも嵩の「逆転しない正義」を一緒に見つけることで、これまでの贖罪をすることにして、結婚後は彼の仕事を陰ながら支え、名前の呼び方も「嵩」から「嵩さん」に変え、みるみるおしとやかになっていった。

 あるときのぶはふと立ち止まってつぶやく。「みんな、お父ちゃんに言われたとおり、自分の夢を追いかけて、ちゃんとつかんだ。うちは何しよったがやろう」(第103回)