北海道の「春グマ駆除」が1989年に中止されたほか、日本各地で駆除の中止が相次ぎ、捕獲数は一時、ヒグマ約200頭、ツキノワグマ約1500頭にまで減少している。

駆除中止によって、クマの生息数は急速に回復する。

環境省の資料「令和5年度クマ類保護及び管理に関する検討会 北海道のヒグマ対策の現状について」によると、北海道のヒグマの生息数は1990年時点で推定5000頭だったが、2012年ごろには倍増して1万頭を越え、その後も順調に増加していることが分かる。

ADVERTISEMENT

世界的な「クマ大量出没」の背景

クマの生息数が急増したことが、現在の大量出没につながったと考えられる。

環境省の資料「クマ類の生息状況、被害状況等について」によると、「クマの出没件数(本州以南、ツキノワグマ)」、「クマによる人身被害件数(全国)」ともにはっきりした増加傾向が見てとれる。

クマの駆除をやめたことで、クマの個体数が増え、被害が拡大したと考えられるケースは海外にも見られる。

ルーマニアはヨーロッパ最大のヒグマ生息地として知られるが、2016年に遊興目的でのヒグマの狩猟を禁止して以降、被害が拡大。結果、2023年には殺処分を認めるクマの年間上限頭数を大幅に引き上げるなど、駆除数の増加を迫られている。同様の問題はスロバキアでも起きているという。

アメリカ・コロラド州では1992年11月、住民投票によってクマの春季狩猟や犬を使った狩猟などを禁止したが、その結果、コロラド州のクマ個体数が増加、それに伴いクマによる被害も増加したという。

アメリカのニューハンプシャー州グラフトンは2004年以降、リバタリアン(自由至上主義)系住民が集まり、可能な限り政府を廃止する「フリータウンプロジェクト」を推進したことで知られる。

彼らが町の予算の30%をカットしたことで、行政によるクマ対策がおろそかになった。ゴミ捨てルールの不徹底によって、クマがゴミを漁ったり、住民による餌付けも行われていた。その結果、町にはクマが頻繁に出没するようになり、住民が家に立てこもるまでになって、およそ100年ぶりに人身事故も起きたという。(この経緯についてはマシュー・ホンゴルツ・ヘトリング著、上京恵訳『リバタリアンが社会実験してみた町の話』原書房にまとめられている)