「クマとの共存」は理想だが…

「駆除反対派」の主張をもう少し詳しく見ていこう。

日本熊森協会の森山まりこ代表と、北海道熊研究会の門崎允昭氏が連名で北海道知事宛てに提出した要望書が、北海道熊研究会のHPに掲載されている。それによると「平成23年度は825頭、平成24年度は609頭(狩猟期101頭、他は駆除)もの熊を殺している」と、そもそも駆除の頭数が多すぎる点を指摘している。

北海道のヒグマ生息数は2023年末時点で約1万1600頭とされるが、600~800頭となると、全生息数の数%にあたる。これだけの数を毎年駆除していれば、ヒグマの個体数はどんどん減っていくだろう。野生動物の保護の立場から、駆除への慎重論や懸念が出ることはうなずける。

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このほか、山に入る際は「ホイッスルと鉈を持参」し、「出没箇所とその両側を、200m程一時的に電気柵を臨時に張」るなどの対策で、被害を食い止められると主張している。できる限り実害を回避し、クマと共存できるなら、それこそ目指すべき理想である点に異論は少ないだろう。同団体の主張はクマ専門家による貴重な意見として傾聴に値するものだ。

だが一方、全国各地でクマが大量出没し、人身被害も相次ぐ状況下で、行政が駆除を行わずに事故を防止するのは現実問題として極めて難しいだろう。

駆除中止によって、生息数は急増

日本ではかつて、野生動物の保護を目的に駆除数を減らしたことがある。

1960年ごろ北海道ではヒグマによる被害が多発。そのため1963年に「ヒグマ捕獲奨励事業」を開始して捕獲を推進、1966年には冬眠明けのヒグマを駆除する「春グマ駆除」を始めるなど、70年代にかけてクマの駆除数はかなり多かった。ピーク時にはヒグマ約800頭、ツキノワグマ約2500頭が捕獲されている。

駆除の増加にともない、ヒグマの個体数が減少したことで、逆に1990年ごろから野生のクマの保護が優先されるようになり、駆除の中止を求める動きが活発化する。