日本全国でクマによる被害が相次いでいる。クマ問題を取材するライターの中野タツヤさんは「1990年代からクマの保護を優先し、駆除を控える動きが広まった。その結果、生息数が急増したことが原因のひとつではないか」という――。
自治体に寄せられる「過激な抗議電話」
クマ対策をめぐって対立が激化している。
北海道福島町では7月12日、新聞配達中の男性がヒグマに襲われ死亡する事故が発生したが、その直後から北海道庁と福島町には200件以上の抗議電話が寄せられたという。
「行政はもっと積極的にクマを駆除すべき」という意見もあった一方、「熊殺し。人間が駆除されるべき」「クマの命も大切だ。人を襲ったクマだとか、いい加減なことを言うな」という過激な抗議もあったという。
野生動物であるクマを保護すべきか、それとも駆除すべきかについては、昔から多くの議論がある。
一般財団法人日本熊森協会は、自然保護の観点からクマの駆除に反対の立場を取っている。「バランスが崩れた自然を元に戻すには、自然の力に任せるのが最良かつ唯一の方法であり、いわゆる『保護』『管理』は、自然保護ではなく自然に敵対する行為だ」と主張し、1994年に兵庫県でクマ狩猟が禁止されたのは同団体の請願活動の結果だという。
「駆除反対」の団体にサイバー攻撃の被害
また、著名なヒグマ研究家の門崎允昭氏が主宰する「北海道熊研究会」も、クマの駆除に反対の立場を取っている。同研究会のHPによると「人と熊が棲み分けた状態で共存を図り、狩猟以外では熊を殺さない社会の形成を図るための提言と啓蒙活動を行う」としている。
駆除反対派による自治体への抗議が活発化している一方で、これら駆除に反対する団体への攻撃も過激化している。8月11日に日本熊森協会のHPがサイバー攻撃を受け、アカウントを乗っ取られて偽のメールが配信されるなど深刻な被害が出ているという。
ちなみに、日本熊森協会、北海道熊研究会ともに、長年にわたってクマと向き合い活動を続けてきた信頼できる団体であり、自治体への抗議電話を呼びかける等の活動は行っていないと明言もしている。両団体を自治体に対する抗議電話の「黒幕」と考えるのは適切ではない。活発な議論は結構だが、くれぐれも冷静な対応をお願いしたい。
