なぜ熊谷は描き続けるのか
ここまで見てきたとおり、熊谷亜莉沙にとって描くことは、自身の人生を生きることと表裏一体になっている。創作はいつも、自分にとって最も切実なことがらと対峙するところからはじまる。
「描くことにすべてを投入してしまうのは、小さいころから変わりません。子どものころは何かを器用にできるタイプではなくて、ほめてもらえるとしたら描いた絵のことくらいしかありませんでした。
最初は漫画家に憧れていたのですが、高校時代に美術の授業で油彩画を知り、以来どっぷり浸かることとなりました。学生時代には抽象画を試みたりと、画風や技法はこれまで変遷してきましたが、自分のなかに湧き上がる強い思いをもとに絵を描きはじめ、画面に精神性が宿るまで筆を止めないところは変わらないままです。
私の絵はいつも自分にとって切実な問題や関心事からはじまりますが、個人の領域に留まっていることをよしとしているわけではありません。絵を観た方が『気持ちが昇華された』と共感を示してくださるときは何よりうれしいですし、私自身もだれかの作品を観て気持ちが救われることはもちろんあります。個人的なところから発した私の絵が、たとえ世界を救えないにしても、せめて隣人の気持ちを救うことくらいは起こし得ないだろうか? そんなほのかな期待をしながら描き続けています。しかし同時に、そんな美しい奇跡など起こらなくてもよい、とも思っています。私はあくまでも私のエゴで描き続けているということに、自覚的でいたいのです」
展覧会場には、ほかにもいくつかの熊谷作品が並ぶ。目と心を奪われてしばしその場を離れられなくなること覚悟のうえ、絵との出合いに赴いてみたい。
photo by keizo kioku
photo by keizo kioku
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熊谷亜莉沙 | 天国泥棒
8月23日~10月11日
ギャラリー小柳
https://gallerykoyanagi.com/





