経済学者・成田悠輔さんがゲストと「聞かれちゃいけない話」をする連載。今回のゲストは、室伏広治さんです。

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人の根源としてのスポーツ

 室伏 スポーツがどうしてこれほど人々を熱狂させるのか。やはり「共感」だと思いますね。オリンピックのようなイベントになると、文字通り世界中が同時に沸くわけで、そういうものって、他にほとんどない。共感の要素を分解すると、もちろんパフォーマンスの凄さであり、人類としてのチャレンジでもありますが、何よりも、地球の反対側に住む人たちも同じルールのもと一つの競技で競うことそのものの感動がありますよね。文化も背景も社会経済の状況もバラバラの選手たちが集まって競う面白さ。誰にでも平等にチャンスが与えられているところに魅力がある。

室伏広治氏(左)と成田悠輔氏 ©文藝春秋

 成田 言語も文化も法律も通貨も違う人たちが、この体一つという共通の原点に戻っていく。

 室伏 根源的なね。

 成田 だからこそ、世界最貧国に生まれても世界一の頂点へひっくり返れるという夢がある。

 室伏 以前、モロッコ出身の友人のアスリートの家に行ったことがあるんです。マラケシュという街から車で3~4時間ぐらいガタガタ道を行ったところに村があって、「ここで生まれたんだ、オレは」と。昔は電気もなくて、数年前に彼が通したそうです。そういう場所からメダリストが生まれてくる事実に驚きました。

 成田 特に陸上とかサッカーみたいに何の設備も道具もなく身一つで挑める競技は、その逆転性が膨大ですよね。

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成田悠輔氏 ©文藝春秋

 室伏 たとえば、ブラジルのペラーダ(草サッカー)。貧しくても、ゴールは2本の棒で作って、シューズがなくても裸足でプレーする。そういう環境で楽しみながら身に付けた技術が、彼らのスーパープレーの素になっている。そうやって様々な環境から生まれてくる世界の選手たちを見れば、自分たちの環境を見直したり、反省したりするきっかけにもなります。

 成田 数あるスポーツの中でもサッカーがあれほど世界全体を圧倒的に熱狂させるのは、大逆転の振れ幅が一番大きいからですよね。野球とかバスケとか水泳は豊かな国が強いですが、サッカーは貧国や小国でも世界の頂点を取りますし。 

 室伏 野球とかに比べると、道具とか人数の制約が少ないですよね。サッカーはボールひとつあればできちゃう。