この日は船内で、乗り合わせた人たちに話を聞く機会があった。一夜限りの記念運航に、なぜ乗船したのか。普段からフェリーで船旅しているのか、などを聞いてみた。
関西に住んでいるという夫婦は、九州各地を旅行するのが楽しみだという。時間の余裕がなかった若いころは飛行機・新幹線でサッと目的地に行ってサッと帰っていたのが、時間の余裕が出るにつれて別府港・大分港行きのさんふらわあを利用するように。今回はチケットが半額だった記念運航を知り、すぐにチケットを確保したという。
ほか食堂では「全国の長距離フェリーに乗り尽くした」「利用はいつも『シングルユース』(2人部屋や4人部屋を1人で貸し切る贅沢な使い方)というスタイル」など、ツワモノにもたくさんお会いした。乗りものファンのカテゴリとして母数が少ないものの「船旅好き」は、それなりに存在するのだ。
「移動するホテル」なのが快適すぎる
「さんふらわあ さつま」は夜が更けてからも、中国の伝統芸能「変面」を披露するショーや、吹き抜けの天井一杯に描かれたプロジェクションマッピングなどで沸き返る。その間にも、乗組員の方々は黙々と航行を支え、船は約22ノット(時速40キロ)程度でゆったりと九州に移動を続ける。
新幹線や飛行機なら「数時間で目的地に着いて、ホテルに移動」の一方、長距離フェリーは「ひと晩かけてゆっくり移動しながら、ホテル並みの船内で1泊」なのが良いところ。船内でぐっすり眠れて、下船後にそのままドライブ・観光に出かけられる。
夜通し移動する交通手段なら、ほかにも鉄道・夜行バスなどがある。ただフロアのスペースは圧倒的に長距離フェリーのほうが広く、限られたスペースに作られた夜行特急の「寝台」や、高速バスの「座席上」ではなく、ちゃんとした「部屋」で寝られる。
かつ、線路の上を走る鉄道や、エアサス(空気バネ)の揺れが常時ある高速バスより揺れも少なく、悪天候でなければ揺れも少ない移動が可能だ。何より、スペースの広さを生かして、レストランやアトラクションなどのサービスを提供できるのも、フェリーの強みだろう。航行できるルートは著しく限られているものの、長距離フェリーの船旅の快適さは、もっと知られてもよいのではないか。


