昔は「大沢の湯」には脱衣所もなくて、浴槽の脇に脱いだものを置く棚があるだけ。夕食後に行くと、地元のばあちゃんたちが民謡を歌って盛り上がっていたりして、まさに田舎の湯治宿そのものでした。

 いや、ばあちゃんたちだけではありません。ときには地元の若い女性がごく当たり前のように入ってくるので、こちらがどぎまぎしたのを覚えています。

若き日に3畳間で侘しさを実感

 直近で『大沢温泉』を訪れたのは2008年で、「大沢の湯」に女性用の脱衣所ができていてびっくりしました。しかしインターネットでホームページを覗くと、さらにいまは浴槽自体を改装したのか湯治場というよりオシャレな旅館に見えます。やはり時代は変わるのです。

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 昔は観光客も少なく、地元のじいちゃんばあちゃんが圧倒的に多かったので、深夜はたいていお風呂を独占できました。雨の日など、人気のない露天風呂にひとり浸かって、豊沢川の流れを聞くのはなんともいえない気分でした。

 混浴とはいえ岩でできた浴槽は大きいため、ある程度の人数になると真ん中にある岩場を境に自然に男女が分かれ、暗黙のルールというか秩序ができていたように思います。

 しかし最近はそうした場面を目にすることなど、ほとんどなくなりました。昔の人には慎みがあったということなのでしょうか。

 ただ、「自炊部」だけはあまり変わっていないようで、いまも1泊3千円ほど。寝具や浴衣を借りると、その分の料金が多少かかりますが、常連客は必要なものを用意していくので、凄く安く泊まることができるのです。

 それに「自炊部」だからといって、食材や調理用具を持参する必要はありません。生鮮食材などを扱っている売店があり、無料で使える炊事場が整っているので、手ぶらで行ってもまったく問題ないのです。しかも自炊が嫌なら、館内に「やはぎ」という食堂もあります。予約をすれば朝食も用意してくれるので、1~2泊の滞在ならここで十分でしょう。

年代物の調度品に囲まれた帳場の待合(写真:筆者提供)
思い出の3畳間。通常の客室は6~8畳が基本(写真:筆者提供)

 私はここのラーメンが気に入っているので、行くと必ず食べています。最近は、懐かしい「中華そば」という感じから、ちょっとおしゃれな今どきのラーメン風になって少し残念ではありますが。