そんな安い宿なら、部屋が酷いのだろうと思われそうですが、そんなことはありません。基本6~8畳間で、トイレは共同ながら冷蔵庫やテレビも完備。シンプルですが、滞在にはなんの不便もないきれいな部屋です。

 そういえば大昔に一度、3畳くらいの狭い部屋に通されたことがありました。部屋にはガス台や冷蔵庫、食器棚などがあり、布団を敷くと裾の方が戸棚にかかってしまうほど。私は特に背が高いわけではないのですが、布団に横になると作り付けの戸棚に足を入れるような形になったのを覚えています。恐らく、住み込みのスタッフ用だったのかもしれません。

 ただし、そんな部屋に通されたのはそのとき1回だけ。混雑期にいきなり訪ねたため、無理矢理空けてくれたのでしょう。

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 しかしあの時ばかりは夜中に目覚め、つくづく侘しさを感じました。“ボロ宿”好きとはいえ、温泉宿で3畳間に泊まったのは初めての体験だったのです。現在も客室として使っているかどうかわかりませんが、できればまた泊まってみたいような気もします。

「自炊部」の建物は古くて入り組んでいますが、それも湯治宿らしくて楽しいものです。お風呂に行く人が通る足音や気配も丸わかりで、昔の素朴な湯治宿の雰囲気が残っています。1カ月くらい滞在したら、どんなに楽しいことでしょう。

大勢の客で賑わった「金勢まつり」

 2008年に訪問した時はちょうど「大沢の湯」で「金勢まつり」をやっており、大勢の客で賑わっていました。

 このお祭りは、大久保山に鎮座している「金勢様」(重さ150キロの欅でできた男根)を担いで練り歩き、最後に露天風呂に半は纏姿の女性たちが入浴させて洗い清めるというもの。金勢様が入った温泉に入浴すると、縁結びや子宝に霊験があるとされているようで、似たようなお祭りが各地の温泉場にもあると聞きます。

 こうした祭りも含めて、長く変わらずにいてほしい温泉のひとつです。数ある湯治宿のなかでもかなり気に入っているので、実はあまり紹介したくなかった、というのが本音です。

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