「たぶん結婚はしないだろうと思っていました」

 近年でも、『朝が来る』(2020年)で、不妊治療を経て実子を持つことをあきらめ、特別養子縁組により養親となることを選択する夫婦(清和と佐都子)を井浦新と演じるにあたり、河瀬直美監督から撮影前に「役を積む」ことを要求された。

映画『朝が来る』(2020年公開)

「役を積む」とは、俳優が役と同化するための河瀬組独自の演出法である。撮影に入る前には、夫婦が結婚前にデートした場所を井浦と訪ねることになり、その前日、監督から突然「清和に渡すプレゼントを買っておいて」と注文も受けたらしい。しかし、そのおかげで、脚本には書かれていない登場人物の過去など、空白を埋めることができたという(『ダ・ヴィンチ』2020年6月号)。

 現実の永作は、結婚願望は薄いものの母親になりたいという思いは常に抱いていたようだ。40歳が近づいたころの対談でも、《子供は欲しいですね。いつかは産んで育ててみたい》と口にしている(『現代』2009年1月号)。それからまもなくして映像作家の内藤まろ氏と結婚、2010年には第1子となる男児を儲けた。

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《正直、仕事で精一杯だから、自分はたぶん結婚はしないだろうと思っていました。でも、あるときなぜか事が進んでいったんです。出産も、“来てくれた”ので産んだという感じです。予想外だったので、びっくりしましたけれど……》とは、産休後の復帰作となった映画『八日目の蝉』の公開時の発言だ(『婦人公論』2011年4月22日号)。

2013年、当時42歳で第2子を出産

 この映画で永作が演じたヒロイン・希和子は、不倫の末に子供を産めない体になり、不倫相手とその妻の幼い娘を誘拐し、逃亡生活を送る。同作の撮影にあたっては、始めたばかりの子育てで赤ちゃんの扱い方を知ったことが役立ったという。永作いわく《知らなかったら、火がついたように泣きじゃくる子どもを心配しすぎて、カットの声がかかる前に何度も止めていたでしょうね》(同上)。

映画『八日目の蝉』(2011年公開)

 その後、2013年には女児を出産している。2児の母親になってからというもの、びっくりするほど自分のことができなくなり、時間を計算して行動することはあきらめたという。しかし、そのおかげで《柔軟性が身についたと思いますし、(中略)お母さんってやることがあまりにも多いから、執着を捨てることをいとわないですし、その潔さが強さのもとになっていくような気がします》とも語っている(『CREA』2013年11月号)。