子どもたちには「しっかり、寂しい思いもしてもらおうかなって」

 撮影のため、家族としばらく離れざるをえないこともしばしばである。『八日目の蝉』も前出の『さいはてにて』も、それぞれ長男と長女の産休が明けてすぐ地方に10日以上滞在して撮影した。ここから子供たちに対してある覚悟も生まれたらしい。

《どうあがいても、私がこの仕事をしている事実は変えようがないので、子どもたちには生まれ持った運命だと真正面から受け止めて、しっかり、寂しい思いもしてもらおうかなって、覚悟にも似た気持ちでいます。そして、大きくなったとき、うちの母はずっと働いていたなって、するっと納得できる大人になってほしい。それが、仕事を持つ親としての願いです》(『CREA』前掲号)

永作博美〔2009年撮影〕 ©文藝春秋

 そう考えるのは、永作自身、両親が農業を営む姿を見ながら育ってきたからでもあるのだろう。子供が成長するにつれて、さらに経験値は上がり、それがまた仕事にも生かされる。NHKの連続テレビ小説『舞いあがれ!』(2022年)で福原遥扮するヒロインの母親を演じた際には、《私自身が母となり、子どもの就学前と後で生活が違うことや、朝の大変さ、登校する・しないという子どもの繊細な部分をどこまで拾い上げるのかを、実体験として知っていたのはよかったです。(中略)役を通して育児体験をもう一回楽しんでいます》と語っていた(「TVガイドWeb」2022年10月8日配信)。

 出演作には、家族のあり方や死生観をテーマにしたシリアスなものが目立つが、硬軟どんな作品もこなす。一昨年(2023年)、コロナ禍での中止を経て2年越しに上演が実現した舞台『月とシネマ2023』は、永作が久々に出演したコメディだった。

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 今年放送された『バニラな毎日』(NHK)では、佐渡谷というクセの強い“関西のおばちゃん”を演じた。料理評論家を名乗る佐渡谷は、自分の店をやむなく畳んだ主人公のパティシエの白井(蓮佛美沙子)を巻き込んで、依頼してきた相手にお菓子教室を開く。これまで永作が演じたことのないような厚かましい役どころだが、そうした役が来るのも年齢を重ねたからこそだろう。

ドラマ『バニラな毎日』(2025年、NHK)

40代ぐらいでやっとおもしろくなってくる

 永作の発言を若い頃から追って見ていくと、ある時期から年齢を重ねることを楽しむようになったことがうかがえる。10年前の対談では、日本では40代、50代の女優が元気に活躍しているという話から《私は40代ぐらいでやっとおもしろくなってくると感じています。若いときにはわからなかったことに合点がいくようになるというか、点と点がつながるようになるんです》と話していた(『週刊朝日』2015年5月29日号)。

 点と点がつながると線になり、線と線がつながると面になる。それは俳優として、そして人間としての彼女の懐の広がりをも思わせる。50代半ばを迎え、永作博美がさらに新たな顔を見せてくれることを楽しみにしたい。

永作博美のインスタグラムより
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