「会話と状況から察するに、このキャップの強面の男は少女たちの監視役──つまり、みかじめ料を徴収するケツ持ちなのだろう。さらに少女の年齢は、少なくとも17歳以下。しかも、たった1万5千円でカラダを売っているというのだ」

 2010年代に記者として、立ちんぼだらけになった新宿の歌舞伎町を取材していたノンフィクションライターの高木瑞穂氏。そこにはヤクザや半グレのもとで、売春を続ける10代少女の姿があった。なぜ少女たちはリスクを犯してまで、カラダを売るのか? 今もなくならない「立ちんぼビジネスの暗黒面」を、文庫『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全3回の1回目/続きを読む

写真はイメージ ©getty

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19歳と称して路上に立つ少女、華奈江(16歳)

 その少女との待ち合わせ場所は、客引きの男が暮らす歌舞伎町の外れにある高級マンションだった。部屋番号を押してインターフォンを鳴らすと、客引きの男にロビーで待つように指示される。

 ソファに座り待っていると、エレベーターから客引きの男が降りてくるのが見えた。

 昼間なのにサングラスをかけたギャルが後に続く。これが少女との出会いだった。

 少女の名前は華奈江(仮名)。件の地で街娼をする16歳である。サラリーマンの父と専業主婦の母、中学生の弟と都内近郊のマンションに住む。客引きの男に「大丈夫だから」と説得されていたようで、街娼になった経緯からその暮らしぶりまですべてを話してくれた。

「去年9月からハイジア周辺で仕事するようになりました。きっかけは地元の友達の紹介です。その友達から『フーゾクで働いている』と聞いて、なら私も働きたいと思って。それで紹介してもらったのが、風俗ではなく立ちんぼだったんですよ。

 もちろん最初は戸惑いました。だって、外に立つとなると人目が気になるから。でも、すぐに慣れました。同じように立ちんぼする仲間がいて、私のあとにも女の子が入ってきて、みんなと仲良くなって。あとから入ってきた子はタメかそれより下。なかには13歳もいました。

 その13歳は10日くらいで居なくなっちゃった。そんな感じでみな入れ替わり立ち替わりだったから、何人いたかは正確にはわからないけど、たぶん15人くらいはいたんじゃないですかね。上は18歳ぐらいまでしかいなかった。ほとんどが15、16歳の未成年でした」

 密着感をウリにした簡易的なマッサージを受けられるJKリフレ店に代表されるJKビジネスが現役高校生世代でも働ける売春の舞台として機能したのは少しあとのことで、この時代、身分証を偽造するなどの悪知恵を働かさなければ16歳の華奈江が正規のルートから売春ビジネスに入り込める隙などほとんどない。

 いや、もし仮に年齢をわかった上で雇ってくれる店があったとしても、安月給でいいように使われて──というお決まりの転落物語が始まるだけだ。つまり、華奈江が思うがままにカネを稼ぐには、こうして路上に立つしかなかったことになる。

 華奈江は、街娼をしていることを“仕事”と言った。まるで法律で定められた性風俗の一業種のように語るのには、何か事情があるのだろうか。

 考えられるのはひとつ、少女らの後ろで目を光らせていた“ケツ持ち”の存在だ。