朝ドラ史に残る復員シーン

 「最終回のひとつ前の回に、ヒロインの夫が復員してくる」。たいていの朝ドラな
らば思いきり見せ場にするところだが、要の復員は「チンドン屋の行列と大きな音に紛れて帰ってくる」というもの。突然のことで、蝶子は要の姿に一瞬気づかない。

「どこ行くんだね」

「ん? ちょっとね……何してんの?」

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「帰ってきたんだ」

 日常のリアリティを大切にしてきたこのドラマらしいひと幕であり、間違いなく朝ドラ史に残る復員シーンだろう。何気ない描写に宿る人間の真実こそが観る者の心を打つ。それを徹頭徹尾貫いたドラマだった。また、「人間の真実」といえば、

「困ったときはお互い様だ。助け合うのは当たり前だ」

  これは、借金苦の末に彦坂きょうだいが離散する第47回、みさが頼介にかけた言葉。至極シンプルなフレーズながら、『チョッちゃん』という作品の核を言い表す台詞だ。

  助け合いと博愛精神を信条とするクリスチャンのみさと、生涯を地域医療に捧げた俊道という両親のもとに生まれた蝶子。女学校の恩師・神谷からは「自分の道は自分で決めること」「物事の表面に目を奪われず、本質を見極めること」の大切さを教わった。上京してからは叔父・泰輔と叔母・富子(佐藤オリエ)のもとで義理人情にふれた。蝶子が学び、信じて、実践してきたことが、そのまま『チョッちゃん』に込められたメッセージだ。

『グラフNHK』1987年4月号の表紙を飾った蝶子役の古村比呂さん

  最終週では、これまで蝶子やみさ、泰輔、富子が配ってきた善意が巡り巡って返ってくる。連平(春風亭小朝)、夢助(金原亭小駒)、音吉(片岡鶴太郎)、はる(曽川留三子)らの力添えを得て、終戦から1年後、蝶子たちは東京で再出発することになる。

  復員してきた要は、シベリアでの過酷な抑留生活で負った心の傷から、もうヴァイオリンで澄んだ音が出せないのではないかと思い悩む。蝶子は要に、青森で知り合った復員兵(でんでん)が語った、かつて兵隊の慰安会で要の演奏する「ユーモレスク」を聴いて救われたという逸話を話す。要はこれを聞いて、再びヴァイオリンを弾き始める。

  情けは人のためならず。誰かを助けることで、自分も救われることがある。他者を敬い、それぞれの違いを尊重したらいいんでない? 対立よりも対話のほうがいいべさ。令和の今にも響く大事なメッセージがさりげなく込められていた。ベーシックで普遍的なテーマを描いた作品は、永遠に輝きを失わない。『チョッちゃん』はそういう朝ドラだった。

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