――実際に対局の現場まで足を運ぶようになったきっかけは?

将棋マダム たいていの対局は無料で観られるんですけど、王将戦はケーブルテレビかサブスクに入らないと観られないんですよ。それまでサブスクに加入していなかったんですけど、そこで考えるようになり、でもどうせ課金するんだったらお金を払って現地で観るほうがいいじゃないか、と思い立ったんです。

持参した扇子には駒の形がデザインされていた 撮影=山元茂樹/文藝春秋

 それではじめて王将戦の前夜祭と大盤解説会に行きました。その流れで、それから全部行くようになっちゃったんですよ。もし王将戦も無料で観ることができていたら、今こんなふうにはなっていなかったかもしれませんね。

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250万円の“見届け人”に応募

――そして2021年の叡王戦(第6期叡王戦五番勝負第3局)では、見届け人に応募します。こちらの参加金額は250万円だったと伺いました。

将棋マダム そもそもの話をすると、その資金はクルーズ船での旅行資金だったんです。

――と言いますと?

将棋マダム 私たち夫婦は、普段からあまりお金を使わない生活をしているんです。お互いに働いているから家にお金がないわけじゃないんですけど、貧乏性というか、本当に梅干しと納豆とご飯があれば十分、みたいな考えなんですよね。それに面倒くさがり屋だから、旅行に行くこともなくて……。

 でも、クルーズ船での旅行だったら、黙って船に乗っているだけでいろいろなところに行けるわけですから、「こりゃあいい」と(笑)。それで、夫婦で1週間の休みを取って、ジャパネットたかたのクルーズ旅行に申し込もうと考えていたんです。

 ところが新型コロナウイルスの影響で、クルーズ船が大変なことになっちゃったじゃないですか。

ダイヤモンド・プリンセス号 (写真:a.p.renderer/イメージマート)

――コロナ禍の初期、まだ緊急事態宣言が発令される前に、「ダイヤモンド・プリンセス号」の船内で集団感染が発生し、船内隔離のまま上陸できず停泊していた事件がありました。

将棋マダム それで「クルーズ船なんてとんでもない」ということになっちゃったんです。そのせいで、クルーズ旅行用の資金が浮いちゃったんですよ。

 ちょうど同じ時期に叡王戦の見届け人が募集されていたので、「どうせ抽選に当たらないだろうな」くらいの気持ちで、記念受験のつもりで申し込んだんです。