株高、そして金も高値を更新し続ける今、どのように投資を始めれば損をすることなく続けられるのだろうか? 『新・臆病者のための株入門』(文春新書)より一部抜粋し、投資初心者が投資するべき“市場”をご紹介する。(全3回の1回目/続きを読む、もっと読む)
世界市場全体に投資する
資本主義は自己増殖するシステムである。この運動がつづくかぎり、長期的には株式の価値はかならず上がる──これがファイナンス理論の根幹にある前提であった。だがこれは、すべての企業の株が上がったり、すべての業種が繁栄することを保証するものではない。厳しい競争や淘汰がありながらも、全体として市場が拡大していくという予測を示しているにすぎない。
当然、すべての国の経済が均等に発展するわけでもない。経済理論でいう「市場」とは、アメリカや日本などのばらばらな国内市場のことではなく、地球全体を覆うグローバルな市場のことなのだ。「経済学的にもっとも正しい投資法」とは、世界市場全体に投資することなのである。そこでこれを「世界市場ポートフォリオ」と名づけよう。
2024年時点で、世界の株式市場における時価総額は米国市場が約60%、日本市場が5%、欧州などその他の先進国市場が20%、中国・インドなど新興国市場が15%程度になっている。したがって、それぞれの市場のインデックスを時価総額の比率に応じて保有することで、世界市場ポートフォリオが完成する。
ここで、「もっとうまい方法があるんじゃないか」と思うひとがいるかもしれない。「そんなまだるっこしいことしなくても、インドとかアフリカとか、これからガンガン株価が上がりそうなところに投資すればいいんじゃないの?」
たしかに、ファイナンス理論によれば、株価は長期的に経済成長率に収斂する。1980年代まで日本の株価が右肩上がりだったのは、戦後の高度成長が背景にあったからだ。低成長時代になれば、かつてのような株価の上昇は期待できない。こうした事情は先進国に共通で、90年代になると欧米の機関投資家のあいだで、経済成長率の高い新興諸国への投資が流行した。
これは理屈としては正しいのだが、新興国の市場規模は大きくないので、みんなが同じことを考えると投資資金が殺到し、すぐにバブルがはじけてしまう。97年のアジア通貨危機、98年のロシア経済危機がこうして勃発した。
資本主義の原理は普遍的だから、国際分散投資も個別株と同様、美人投票にならざるを得ない。経済成長率の高い国はみなが争って投資するから、株価も割高になる。そこで面倒なことは考えず、世界市場にまるごと投資すればいい、という話に戻るのである。




