NHK連続テレビ小説『ばけばけ』から初の“退場者”が出た。10月17日に放送された第15回で、髙石あかり演じるヒロイン・松野トキを幼い頃から気にかけていた雨清水傳(堤真一)が帰らぬ人となり、ネット上でも悲しみの声が広がっている。

 松野家の遠い親戚にあたる雨清水家。その当主・傳のモデルではないかと言われている小泉湊は、もともと松江藩で番頭を務めた300石取りの上級武士で、明治維新後は旧士族の娘たちの働き口となる機織り工場を立ち上げた。

 時代の変化に適応する柔軟性を持ちながら、武士の心は捨てず、義理人情を重んじる。堤の演技には常に威厳と温かみが同居していて、まさに「威あって猛からず」を体現していた。

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堤真一 ©時事通信社

スタントマン志望→“月9”の看板俳優に

 堤は高校卒業後、故・千葉真一が創設したジャパンアクションクラブ(JAC)に入団。同クラブの先輩だった真田広之の付き人を務めながら、スタントマンを志していた。当初は役者をやるつもりはなかったが、黒衣として参加した舞台『天守物語』で主演を務めた坂東玉三郎の芝居に感銘を受け、表舞台への憧れが芽生えたようだ。

 JAC退団後、20代はひたすら舞台に打ち込み、デヴィッド・ルヴォーや野田秀樹といった名だたる演出家のもとで役者としてのスキルを磨き上げた。そんな中、31歳の時に転機が訪れる。当時、トレンディドラマの代名詞として軒並み高視聴率を叩き出していたフジテレビ系“月9”ドラマへの出演オファーが舞い込んだのだ。

 それが、1996年に放送された『ピュア』。同作で、和久井映見演じる知的障害のある無垢な女性と恋に落ちるクールな元新聞記者を演じた堤は一躍時の人となり、その後、出演した舞台には中高生が殺到したという。その人たちのマナー違反で芝居が邪魔され、「もう二度と連続ドラマなんかやるか!」と思っていたそうだ(TBS『日曜日の初耳学』2023年3月12日)。