「年齢的にギリギリやで」と言われた“伝説の恋愛ドラマ”

 ゆえに同じく月9ドラマ『やまとなでしこ』(2000年)に出演するのも本当は嫌だったが、当時すでに30代半ばだった堤は所属事務所の社長から「年齢的にギリギリやで」と諭されてしぶしぶ仕事を受けたという(フジテレビ『ぽかぽか』2025年8月19日)。

『やまとなでしこ』は、玉の輿を狙うCAの桜子と、彼女に一目惚れして医者と身分を偽った貧乏な魚屋の跡取り息子・欧介によるロマンスコメディ。自分の恋心に素直になれなかった桜子が欧介に「残念ながら、あなたといると私は幸せなんです」と思いを告げる場面は、今なお語り継がれる名シーンだ。

 松嶋菜々子演じる桜子のキュートさもさることながら、堤扮する欧介もど真ん中なカッコイイキャラではないが、人の好さと知的さが滲み出ていて「こんな人と恋したい!」と思わされた。

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朝ドラ『ばけばけ』公式Instagramより

頭髪を白く染め、わざと薄くした“狂気の役作り”

 堤自身は誰もが認める二枚目で、61歳となった現在もカッコよさは健在だが、意外なことに朴訥とした冴えない役がハマる。特に忘れがたいのは、映画『容疑者Xの献身』で堤が演じた天才数学者でありながら孤独な人生を送る石神哲哉だ。

 同作は福山雅治主演の劇場版『ガリレオ』シリーズの第1弾にして最高傑作と名高い作品。自分を救ってくれた隣人の母娘が犯した罪を隠蔽するため、警察や福山演じる天才物理学者・湯川学の目を欺く巧妙なトリックを仕掛ける石神の狂気的なまでの愛を描いた。

 この映画は定期的にテレビで放映されており、何度も観ているはずなのに、ラストで自身の計画が潰えるとともに、初めて人の愛に触れた石神が慟哭する姿に涙腺が崩壊してしまう。

 石神がしたことは倫理的に間違った行為だと頭ではわかっていても、同情を禁じ得ないのはひとえに堤の徹底した役作りによるもの。原作の石神は低身長で小太りな体型かつ薄毛の設定だったため、一部の読者からは高身長で容姿端麗な堤は役に合わないのではと懸念する声も当初はあったという。

 しかし、堤は頭髪の前部を白髪に染め、さらにはすきバサミで髪を薄くするという身体的アプローチに加えて、猫背姿勢やボソボソとした喋り口調で見事なまでの冴えない男を作り上げた。