――では、森さんは危険な目に遭ったことはないですか?

 ゴリラに吹っ飛ばされたことはありますよ。メスで、すごく親しくしていた「インイェンイェリ」という子どものゴリラがいたんですけどね。

 私はザックを担いで森の中に入るんですけど、しょっちゅう雨が降るから、ナイロンのカバーをしているんです。ある日、ザックカバーが少しめくれていて、インイェンイェリが遊び半分にそれを剥ぎ取って舐めたり匂いを嗅いだりしていたんです。

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ザックカバーで遊ぶゴリラ © Keiko MORI & Rwanda Development Board (joint copyright holders) 

 最初は「待っていれば返ってくるだろう」と思っていたんです。でも、ふと見たらインイェンイェリの体にうんちがついていて。ザックカバーにうんちがついたら嫌だなぁ……と思って、インイェンイェリに手を差し出して「返して」って言ったんです。

 そしたら突然、インイェンイェリの父が私に向かってブワーッと突っ込んできて。私に触りはしなかったんですが、その勢いで私が後ろに吹っ飛んだんです。隣にいたトラッカーが「ギャー! 啓子! 大丈夫か!」と叫んで、その場が騒然となりました。

ジャングルでの衝撃体験を語る森さん 撮影=鈴木七絵/文藝春秋

 たぶん、私が子どもに何か危害を加えるかも知れないと思ったんでしょうね。ゴリラは穏やかな性格なんですけど、自分の子どもに危害を加えられると怒るんですよ。

お母さんゴリラが見せた“賢すぎる行動”

――それは災難でしたね……。

 でもあるとき、インイェンイェリとは別のグループで、同じように子どものゴリラがザックカバーを取って舐めていたことがありました。

 私はもう、じっと黙って様子を見ていました。そのうち他のゴリラたちもやってきて、カバーに触りたい様子で、ドラミング(胸を手のひらで叩く動作)をして興奮してるんですね。

たけのこを咥えて胸を叩くゴリラ © Keiko MORI & Rwanda Development Board (joint copyright holders) 

「これはもう返ってこないかも」と諦めかけたとき、お母さんゴリラが子どもからザックカバーを取り上げたんです。子どものゴリラは、他のゴリラたちには触らせなかったカバーを、お母さんには素直に渡したんですよね。

 お母さんゴリラはそのままザックカバーを持って、私のカメラの前に置いて去っていきました。