顔を噛まれ“約70針”縫う大けがに
「その途中で、看護師の人が何度も血圧を測るっていうのさ。右手の負傷が激しかったのに右手で血圧を測るってね。左手で何とかならんかい? って聞いても『ダメです。我慢してください』って言われて、血圧測るたびにギャーっていうほどの痛みでさ。そのたびに意識がはっきりしたね(笑)。
その頃は新型コロナウイルスの流行期。紋別の病院に着いても、検査の結果が出るまで30分くらいそのまま待たされた。寒い中、血だらけぐちゃぐちゃのまま一人でつらかったな」
処置が終わったのは夜遅くだった。
「傷を麻酔なしでバンバンとホチキスで止められてさ、痛いのなんのって。裂けた口はホチキスじゃなくて針と糸で縫合されてね。口の中の裏側からも針を入れるんだわ。消毒もしみて痛かったけど、あれは痛かった」
よほどクマを殴ったからなのか、手首も痛かった。拳にはクマの歯形もついていた。でも治療を続けるうちに、「クマに嚙まれるよりは痛くないから、しっかり縫ってくれ」と、冗談も言えるようになっていたという。
当日、ひと通りの治療が終わると包帯でぐるぐる巻きにされた。翌日、消毒するためにそれを外した。その際、トイレに用を足しに行き鏡で自分の顔を見た。唇は異常に腫れて、顔中傷だらけ。フランケンシュタインみたいだった、と山田さんは自嘲する。
運ばれた山田さんは頭、顔、顎、腕などに裂傷を負い、約70針を縫う大けがで、5日間、飲まず食わず点滴のみ。2週間の入院となった。
その間、猟師としてはあるまじき事故だと、ベッドの上では反省しきりだったという。
まず、あの距離で、最初の一発で仕留められなかったのがいけなかった。そして、ササ藪の中で動いていた場所を見失った。にもかかわらず、無警戒にクマに近づいたこと。もっと慎重であるべきだった。崖の中腹であともう数分、じっと目視していればよかった。「きっとあのへんだろう」という無根拠な予想でクマに近づいてしまったのは、完全に油断だった。