山田さんの体に残った後遺症

「不幸中の幸いだったのは、一緒にいた若いもんに被害がなくて、俺だけで済んだこと。そう思ったらホッとしたね」

 当該クマは、山田さんと格闘した場所から数mの場所で絶命していた。体長1m、体重70kg、だったという話も聞いたが、性別については把握していない。もう一頭のクマは木から落ちたあと、行方不明となっていた。

 山田さんには後遺症が残った。顎に嚙みつかれ左右に振られ引きずられたことで耳にも影響があり、聞こえが悪い。口には麻痺が残って滑舌が悪くなり、飲み物もうまく飲むことができなくなった。2本の手の指に麻痺があり、感覚がない。

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 顔の傷は、自家製の「網脂」の効果で治りは早く、傷痕は残っているが、年齢とともに刻まれるシワと同化して一見すると分からなくなっている。しかし、顔まわりのダメージが多いこともあり、冬場は、マスクの下にカイロを入れなくてはいけないほどの冷えに悩まされるという。

「人生最大のアクシデントだったな(笑)」

 退院から2カ月後、山田さんは早々に猟師として復帰した。

 当分の間、自粛しようか、猟師を辞めようかという気持ちもあったが、ここで身を引いたら地域の駆除活動が続かなくなるのではないかと思い直した。

 事故は自分のミスで仕方がない。不安も後悔もないし、クマに恨みもない。でも、この事故の教訓を若い者に伝えていかなければいけないし、滝上町は、クマと共存しなくてはならない土地柄だ。

手前は山田さんのデントコーン畑。ここにもクマがやって来ることがあるという(撮影=風来堂)

 クマによる農業被害は年々増えている。里に下りてくるクマは対処が必要だが、山の中まで入っていって撃とうとは思っていない。

 最後に山田さんは、屈託のない笑顔でこう語ってくれた。

「ラグビーやってたときはさ、俺は小柄なのに、身長180cmとか体重100kgの相手にいちばんぶつかっていかなきゃならないポジションだったからさ。ケガやあざが絶えんかったのよ。でも、クマと格闘したのは、それらとは比較にならない。人生最大のアクシデントだったな(笑)」

次の記事に続く 「顔面への攻撃が圧倒的」「自宅の庭で遭遇するケースも…」クマ被害急増、秋田の救急センター長が指摘する“クマを暴走させてしまうNG行動”とは?

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