森昌子に山口百恵、ピンク・レディー。さらに中森明菜や小泉今日子といったレジェンド級のアイドル達を数々輩出してきた伝説の番組『スター誕生!』。しかし、当初はその手法に対して「まるで奴隷市場」「人買いだ」といった批判が集まっていたという。
一体何を問題視されたのか。やがて平成、令和のアイドルにもつながる要素を生み出すきっかけにもなった『スター誕生!』の手法を『アイドル・オーディション研究 オーディションを知れば日本社会がわかる』(太田省一(編著)、塚田修一(編著)、辻泉(編著)、青弓社)から一部抜粋してお届けする。(全4回の2回目/続きを読む)
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「まるで奴隷市場」と猛批判された理由
オーディション受験者の様子をテレビに逐一公開することは、世間からの激しい批判を集めることにもなった。特にその対象になったのが、決戦大会のスカウト場面である。
当然ながら、森昌子の登場は番組スタッフにとって大きな光明だった。森田昌子という一人の少女に13枚のプラカードが上がったとき、チーフプロデューサーの池田文雄などは小躍りして喜んだという。
だがそれから数日後、池田はひどく落ち込んでいた。「ひどい話だよ。人買いだって書かれちゃったよ。決戦大会のスカウト・システムが、まるで奴隷市場の人身売買のようだって書きやがったのさ」。
それは、阿久悠にとっても心外な話だった。むしろ考えていたことは逆で、『スタ誕』という番組を通して不透明なイメージが強い芸能界をガラス張りにしたい、芸能界は「得体の知れないもの」「危ないもの」「おぞましいもの」であるという定評を覆したいと念じていたからである。そのための公開スカウトのシステムだったのだ。

