血糖値は“瞬間風速”の数値に過ぎない
では、健康診断では具体的にどのような項目に注意すればよいのか。
ここで言っておきたいのは、「血糖値」の数値だけで、一喜一憂してはいけないということです。血糖値だけでは糖尿病の発症リスクを正確に知ることはできません。
あくまでも「ピラミッド」の原則にならい、他の検査項目と組み合わせて総合的に判断する必要があるのです。
多くの人が見落としがちなのが、尿検査で分かる「尿糖」の項目です。さらに、言うまでもありませんが、「HbA1c」の数値も非常に重要です。
本来、糖尿病の発症リスクを把握するためには、この「血糖値」「尿糖」「HbA1c」という3つの基本セットを押さえておくべきなのです。
改めてそれぞれの特徴を見ていきましょう。
【1】血糖値
血液中の糖分の濃度を示すので、指標として直接的でわかりやすい。しかし、一番の問題点は、あくまでも“瞬間風速”の数値に過ぎないということです。
血糖値は普段の生活で頻繁に変動しています。空腹の時は血糖値が下がって、甘いものが食べたくなりますし、逆に甘いものをいっぱい食べると血糖値は急激に上がります。軽く運動するだけでも血糖値は下がる。このように食事や運動の影響を受けやすいのです。
つまり血糖値は、採血をした時の状況によって大きく変動してしまう。そこで、血糖値には10時間以上、食事をとらない状態で測定した「空腹時血糖値」と、通常通りに食事をとった後に、とくに時間を定めずに測定する「随時血糖値」という2つの指標を設けています。
もし患者さんの「空腹時血糖値」が「126(mg/dL)以上」、あるいは「随時血糖値」が「200以上」のいずれかに該当する場合、医師は、その患者さんが糖尿病であることをかなり強く疑います。
しかし、繰り返しになりますが、空腹時であろうが、随時であろうが、「その瞬間」の血液中の糖分濃度を見ているだけです。日常生活を通して、いつも血糖値が高いかどうかは分かりません。
※『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』(文藝春秋)では、「尿糖」と「HbA1c」の長所と短所についても解説しています。
伊藤大介(いとう・だいすけ)
1984年、岐阜県生まれ。東京大学医学部卒業後、同大医学部外科博士課程修了。肝胆膵の外科医を経て、その後、内科医・皮膚科医に転身。日本赤十字医療センターや公立昭和病院などを経て、2020年に一之江駅前ひまわり医院院長に就任。1日に約150人、年間3万人以上の患者を診察する。日本プライマリ・ケア連合学会認定医、同指導医、日本病院総合診療医学会認定医、マンモグラフィ読影医。2025 年に日本外科学会優秀論文賞を受賞。
