――音楽の授業でもピアニカとか、口を使うものがありますよね。
小林 そうですね。どうしても鼻から息が漏れてしまうので、たとえばリコーダーだと息を吐く力をいっぱい溜めないといけなくて、すぐに息切れしてしまったりとか。
――口を使うようなタイミングがくると、「ゲッ」と思ったり?
小林 思いましたね。運動会のパン食い競争も前歯がないので引っ張れないし、粉の中に隠れている飴玉を口で探す競技もできなかったし。運動会に苦手意識がありました。
当時はそこまで自覚していなかったんですけど、やっぱりストレスになっていたみたいで、小学生の時は円形脱毛症にもなりました。
――ちなみに、前歯がないのは生まれた時からですか?
小林 人それぞれなんですが、私の場合、1、2本は生えてたんですけど、生えてる部分も本来の生えなきゃいけない部分ではなくて、ちょうど前歯とのどちんこの真ん中あたりに歯が生えてたんです。
それを矯正で前に押し出す治療もやったんですけど限界があって。で、腰骨から上顎に骨を移植する際、上顎を切開するにあたって、やっぱり前歯が邪魔ということで、その時に唯一残っていた1本の前歯を抜いちゃったんです。
――前歯とさようならするのに抵抗はなく?
小林 前歯としての存在意義がなかったというか、前歯の役割も果たしてなかったし、1本だけベロに歯が当たるのもうっとうしかったので、すっきりしたという方が大きかったかな。なので、今は、前歯は入れ歯です。
記憶に残っているのは「円盤の手術」
――通算21回の手術を受けてきたそうですが、幼少期で記憶に残っている手術はありますか。
小林 9歳の時に受けた、「円盤の手術」ですかね。
――「円盤」とは……?
小林 当事者の間でそう呼んでるんですけど、上顎を前に出す手術で使う器具が円盤っぽいんです。
で、その器具で頭と顎をボルトで締めて、ネジで毎日、手動で上顎を何ミリかずつ前に出していくわけなんですけど、それはしんどかったですね。顔を支える器具が重たいし、ご飯も流動食で、その状態で1カ月ぐらい入院して。今は円盤のような器具は使わなくなりました。
でも、今こうやって「大変やった手術は?」とかって聞かれてもあんまりピンとこないんですよね。



