「奥田民生」になりたい――「大富豪」などの属性ではなく、いち個人としてそんなふうに憧れられる人が今、どれだけいるだろうか。
「大迷惑」「すばらしい日々」などの名曲で知られるロックバンド・ユニコーンで華々しくデビュー。ソロアーティストとしても「愛のために」「さすらい」「イージュー★ライダー」など数々のヒット曲を生み出す一方、井上陽水とのコラボユニットや、女性ボーカルユニット・PUFFYの活動初期を支えたプロデューサー業などでも大成功している。
それだけのことを成し遂げながらも、大観衆を前にしたロックフェスからCMまで、どんな場所でもたたずまいは常に自然体。おまけにベテランから若手まで、同業者からも絶大なリスペクトを捧げられている。初めて真正面から人生論・仕事論を語った本書でも、いい感じの力の抜け具合は変わらない。上から押しつけるのではなく、あくまで「俺はこうしてきたけど、どう?」とでも言うように考え方を示してみせる。
「10年ほど前から何度もオファーし、ようやく受けていただけた念願の企画です。民生さんは30代になられるタイミングで『29』『30』というアルバムを出し、『29-30』というツアーを回られましたが、今回はそれを踏まえ、還暦となられるこのタイミングで、この書名と内容をご提案しました」(担当編集者の石塚理恵子さん)
実は著者は、たたずまいのゆるさとは裏腹に、ライブや楽曲制作などで絶えず忙しく動き回っている。仕事以外の部分でも「タイパ」を重視する一面があるなど、パブリックイメージと微妙に異なる、ストイックな社会人としての一面が本書を通じて見えてくる点がまたいい。そうした点が人生のロールモデルを求める読者に広く刺さったようだ。
「大勢のコアなファンを持つ民生さんですが、妻夫木聡さんと二度にわたって共演されたサッポロ生ビール黒ラベルのCMなどを通じて、その輪の外側にも潜在的な読者が大勢いると感じていました。ダイヤモンド・オンラインにアップした記事もかなり読まれて、否定的なコメントがほぼ付かないのもさすがなところ。民生さんの生き方には大きく広がる魅力があると、改めて強く感じました」(石塚さん)
