俳優の石田えりがきょう11月9日、65歳の誕生日を迎えた。今年(2025年)7月には、石田の監督・脚本・主演による映画『私の見た世界』が公開されている。
この映画は、1982年に起こった松山ホステス殺人事件の逃亡犯・福田和子をモデルに(劇中での名前は「佐藤節子」)、彼女が指名手配されながら15年にわたって各地を転々とした末、時効寸前に逮捕されるまでを描いたものだ。同事件は過去にもたびたび映像作品でとりあげられ、大竹しのぶや寺島しのぶといった演技派俳優が福田和子を演じてきた。それら従来の作品に対して今回の作品は、彼女の人生というよりは、彼女から見た世間の人たちの様子(その変化を含めて)に焦点を当てたのが特徴である。
「目覚めたとき、恐怖がガーッとよぎってきて…」
このため、映画を観ているうち、彼女が他人からどう見られてきたのか追体験させられ、そのつらさや恐怖など心情が痛いほど伝わってくる。それらは石田自身が、俳優という仕事を続けるなかで味わってきたことでもあるのかもしれない。実際、彼女はかつてインタビューで、《朝、起きて目覚めたとき、恐怖がガーッとよぎってきて、瞬間ワーッと落ちるんです。(中略)ただ単純なコンプレックスが恐怖の原因なんです。人にどう見られるんだろうとか、人の視線が怖いとか》と語っていたことがある(『PLAYBOY日本版』2009年1月号)。
石田がそんな自分と福田和子を重ね合わせたことは間違いない。今回の映画公開にあたっては、《最後、彼女は逃げなかった。手配犯である自分を疑う他人の目、逃げ出したい衝動――それらと対峙したのだと私は思うんです。嫌なこと、面倒なことは沢山あるけど、自分からは逃れられない。じゃあどうすればいいか。そのヒントを作品から感じてもらいたい》と、「厄介なものから逃れたい」との思いは人間なら誰しも抱くものとして、観る人にメッセージを送っていた(『週刊文春』2025年7月31日号)。
自ら脚本を書きあげ、長編映画の初監督に挑んだ
映画はこれ以前にも短編は撮っていたが(2019年公開の『CONTROL』)、長編は今回が初めてだ。石田にはこれとは別に、長年ずっと撮りたかった企画があり、プロデュースに回って、ほかの人に脚本を書いてもらったものの、自分のやりたいこととズレが生じて白紙に戻したという(「日刊SPA!」2025年8月7日配信)。その経験から『私の見た世界』は自分でつくったほうが納得のいく作品になると思い、脚本を書き上げると出資者探しに奔走したが、ことごとく断られてしまう。


