血液量が低下している最も危険な状態

・血圧が「高く」脈拍が「正常」

 このような状態の時は、「動脈硬化が進行している」、あるいは「塩分を多く摂っている」などのケースが考えられます。

 誤解を恐れず、ごく簡単に説明すると、血圧は「全身に血液が行き届いているかどうか」で変化し、脈拍は「交感神経が活性化しているかどうか」で変化します。

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 動脈硬化が進むと、血管が硬くなり弾力性を失うので、心臓は全身に血液を送り出すためにより強い力が必要になります。それによって血圧は高くなりますが、血管が硬くなろうとも、交感神経が活性化されるわけではないので、脈拍は正常なままです。

 塩分を摂りすぎた時も、血中の塩分濃度を下げるために循環する血液量が増え、血圧が高くなります。これも体内の水分量が増え、全身に血液を届けるのが大変になる分、血圧が上昇するのです。しかし、交感神経を活性化することにはならないので、脈拍は正常なままです。

・血圧が「低く」脈拍が「速い」

 体内を循環する血液量が低下していて、これが最も危険な状態です。

 例えば、出血や脱水症状などで体内の血液量が減ると、血圧は下がります。すると、交感神経が活性化され、血圧を上げようと様々な臓器に働きかけます。心臓に対しても「早急に体の隅々まで血液を送れ」と指令を出すので、心臓は1回に送り出す血液量を増やすために、拍動の回数も増やして、必要な血液量を確保しようとします。これによって脈拍も速くなります。

画像はイメージです ©アフロ

失神やめまい、ショック状態に陥るリスクも

 それと同時に、交感神経は、全身の血管、特に手足の末端にある細い血管に対しても「収縮せよ」と指令を出します。血管がキュッと細くなれば、その中を通る血液の圧力は上がります。ホースを指でつまむと、水の勢いが強くなるようなものです。

 出血や脱水症状は体内で非常事態宣言が出たようなもので、下がってしまった血圧を正常に戻そうと、全身の血管や神経が必死に奮闘するのです。

 しかし、それでも十分に作用しない場合は、血圧は低いままで、脈拍だけが速くなることになります。これはかなり危険な状態です。手足を触ってみると、乾燥して冷たくなっているはずです。放置すると、失神やめまいなどの症状が現れ、ショック状態に陥るリスクもあるため、すぐに病院を受診しましょう。

 このように血圧と脈拍を組み合わせることで、自分の血管がどのような状態にあるのか、水分不足なのか、動脈硬化が進んでいるのか、あるいは精神的な原因で血管に負荷がかかっているのかなど、かなり具体的なことが把握できるのです。

『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』(文藝春秋)では、「3つの視点」の残りの「【2】「上の血圧」と「下の血圧」の差を見る」「【3】血圧の変動パターンを見る」についても詳しく解説しています。

伊藤大介(いとう・だいすけ)

1984年、岐阜県生まれ。東京大学医学部卒業後、同大医学部外科博士課程修了。肝胆膵の外科医を経て、その後、内科医・皮膚科医に転身。日本赤十字医療センターや公立昭和病院などを経て、2020年に一之江駅前ひまわり医院院長に就任。1日に約150人、年間3万人以上の患者を診察する。日本プライマリ・ケア連合学会認定医、同指導医、日本病院総合診療医学会認定医、マンモグラフィ読影医。2025年に日本外科学会優秀論文賞を受賞。

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